井浦新(左)と若松孝二監督(時事通信フォト)
井上:クランクイン前に、レジェンドと呼んでいる足立さん、秋山さん、ガイラさん、高間さんに意見を聞く会があったんです。当然、それまでにもそれぞれの意見は聞いていて、一人ひとりはそんなに悪いことは言ってなかったのに、その時はWOWOWでメイキングを放送する予定があって、、カメラが入っていたんですが、そうしたら皆さん、ボロクソに言ったたんですね。その時にガイラさんが言ったのは「俺たちはもっと垂直にキリっと立っていたんだ」と。「このシナリオにはそれがない」と。あと、びっくりしたのは、荒井さん、あの頃の若松さん、怖かったよって言っていましたものね。
荒井:怖かったよ。お友達になったのはずいぶん後だもの。
森:みんなが垂直に立っていたっていうのは、若松さんにここまで依存していなかった、という意味ですか。
井上:というか、みんなもっと一人一人がピリピリというかヒリヒリして生きていたということじゃないですかね。それが映画ではソフィスティケートされて描かれているみたいなニュアンスですかね。
森:傍から見ているぶんには、全然そういうふうに見えたけどね。実際に内部にいた人には違う感覚になるのかもしれないけど。あと、やっぱり最初、井浦新さんが若松さんをやるって聞いた時は無理だろうと思ったけど、見事でしたね。
「ぼくたち、物真似大会やるつもりありませんから」
井上:それは白石さんと最初の打ち合わせで「ところで若松さん、誰やるの?」って聞いたら、「それは新さんしかいないでしょ」って言われてぼくも「えっ」って思ったけど、白石さんは最初からそれ以外の選択肢はなかったんだよね。
白石:生前の若松さんとの関係でいえば、荒井さんは「新若松プロ」と呼んでいましたけど、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2007年)以降の若松さんの映画の推進力に新さんはなっていたんで、似てる似てないは当然あるんですけど、そういうことよりも若松さんのパッションみたいなものを新さんなりにたぶん継承しているでしょうし、それは新さん以外に誰もいないだろうなと。
井上:みんなに意見を聞いた会で、もうボロクソに言われて、ぼくは当然何も言えないし、白石もやっぱり一緒につくっているから言えなかった。そしたら新さんがスッと立ち上がって「すいません、言っておきますけど、ぼくたち、物真似大会やるつもりありませんから」ってレジェンドたちに言ったんですよ。それはそれは格好良かった。そしたら、映画見たら、新さん、若松さんの物真似やっていて、びっくりしたという(笑)。荒井さんは今までホンのこととか事実と違うことは言っていますけど、新さんの若松さんはどうだったんですか。
荒井:最初から違うだろうっていうのがあるから、なんともね。そのキャラっていうのは物真似でしか出せないじゃないですか。でも若松さんは細い感じじゃないからさ。だからそっくりさんをやるつもりはないというけど、どうなんだろうな。
白石:ちなみにですけど、若き日の荒井晴彦クンが出てくるじゃないですか。あれに関しては荒井さん、違うなって一回も言ってくれたことがないんですけど、あれは気に入っていると思っていいんですか。
荒井:うちの妻があんな感じだったと言ったらしいんだけど(笑)。それは俺よりは第三者の意見のほうが。
井上:はじめて見た時は、荒井さん、「うちの娘に見せたい」って言ったんですよ。
荒井:それはまた別でしょう(笑)。
井上:ちなみに、その感想は誰に言われるよりもうれしかったですよ。それはどういう意図で言ったんですか。
荒井:いやいや、あの時代、お父さんの青春、こういうことをしていたんだなあということがわかるかなと思って。だから俺に似てる似てないじゃない。
井上:だけど荒井さん役の藤原季節には頑張ったって言っていたじゃないですか(笑)。森さん、映画としてみてはどうだったんですか。
森:うーん。ぼくはこの吉積めぐみさんの話、というか存在も知らなかったので、観ながらこんなエンディングなるとは、当然だけど思ってもいなかったんです。映画は伏線が大切だけど、実際の日常に伏線はほとんどないですよね。すべて唐突です。何かそれに近い感覚を持ったのかな。映画としてダメということではなくて、実際に知り合いの訃報を聞いたような感じ。
実話をベースにしている、ということは承知で観ていたのだけど、彼女の死で、ああそういうことかってそれまでの流れが一気にフィードバックしたというか腑に落ちたというか、そういう意味でのインパクトは大きかったです。
白石:森さんは、映画に出てくる「赤バス」【若松監督のドキュメンタリー『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』(1971年・以下、『赤-P』)の全国上映運動のために購入したバスを真っ赤に塗ったためにこの呼称が生まれた】というのはご存じだったんですか。
森:赤バスのエピソードは知らなかった。ただ『赤-P』は観ました。あれはどっかの上映会に呼ばれて行ったのかな。そういう過激な政治的部分も若松さんはやってきたことは知っていたけれども。