芸能

荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上純一が語る「若松孝二」【ミニシアター押しかけトーク隊第6回】

若松孝二監督(時事通信フォト)

若松孝二監督(時事通信フォト)

 コロナ禍で苦戦する全国の映画館を応援しようと、4人の映画人がオンライン・トークショーを行っている。『ミニシアター押しかけトーク隊「勝手にしゃべりやがれ」』と題したイベントでは、賛同した劇場で上映された作品について、荒井晴彦(脚本家、映画監督)、森達也(映画監督、作家)、白石和彌(映画監督)、井上淳一(脚本家、映画監督)の4氏がオンラインで縦横無尽に語る。その模様は、上映直後の映画館の観客が観覧できるほか、YouTubeでも公開されているが、ここではそれを活字化してお届けします。今回の作品は、森達也氏以外の3人も深くかかわった若松プロダクションの青春群像劇『止められるか、俺たちを』。今回はその後編です。(文中一部敬称略)

その辺の灰皿を取って頭にポーン

井上:さっきの、造反して赤バスから足立正生さんを追い出したその後の話をしてくださいよ。若松プロ史観では結局、赤バスを乗っ取ったけど、どうにもならずに埼玉の空き地に乗り捨てて、ずっとあちこちに逃げ回っていて、プリントもどこに行ったかわからなくて、東京に戻れないから軽井沢のラーメン屋で働いていたという。

森:それって連合赤軍のエピソードにちょっと通じるよね。彼らも転々と山岳ベースやアジトを行き来しながら、東京でラーメン屋で働いたりしていたらしい。

荒井:若松さんの命令で日本刀を持って日芸の芸闘委の行動隊長だった岩淵進が博多に来るという情報があって、鉄パイプ用意して待ってたんだけど来なかった。で、東京戻ったら若松プロを襲撃するかという案も立てたの。でも新宿で遭遇するのもいやだなと思っていた時にバスに乗っていたひとりが軽井沢で住み込みでラーメン屋をやらないかという話をもって来た。それに乗って斉藤博と4人かで行ったんだ。ラーメン屋とあさま山荘の間に、セブンツーという大きなゴルフ場があって、ある日、黒いベンツが2台止まったんですよ。そこで斉藤に「俺、やくざ嫌だから、やくざだったら断れ」って言ったの。そしたら入って来たのが若松孝二なんですよ。ゴルフ場帰りで。後年、連合赤軍の映画を撮る人が事件から半年くらいに隣のゴルフ場でヤーさんとゴルフをやってたんだよね。一瞬、固まったな。

森:それって偶然?

荒井:偶然。それで向こうも、あいつら、こんなところで落ちぶれてラーメン屋をやってんのかって思ったらしいんだな。同情心が湧いたらしい。こっちは固まってどうしようと思っているのに。そしたら、「荒井、ちょっと来い」って言って、殴られるかと思ったら、こっそり耳打ちするんだよ、「あの連中、ヤーさんで金持ってるからボッていいぞ」って。「若松さん、ラーメンでどうやってボルんですか」って聞いたら「つまみ出してつまみで金のせろ」とか言って(笑)。

井上:だって若松さん、荒井の腕を取るってゴールデン街を日本刀をもって歩いていたんでしょ。そうやって言いながら若松さんらしいエピソードだよね。

荒井:メンマとチャーシューのつまみで少しボったけどね(笑)。

白石:それでラーメン屋はそのタイミングでやめたんですか。

荒井:いやシーズンの商売だから軽井沢に赤とんぼが飛ぶようになって、どうしようかなと思っていたら、若松さんが「帰って来い。助監督いないから」と。それで斉藤博が先に帰って、俺はギリギリまで粘っていたんだけど、帰って、それで若松さんは『濡れた賽の目』(1975年公開)を撮るんだよ。要するに足立さんがいないからホン書く奴がいないから書けって。この間、ネガが見つかったんだから、イベントをやる時に上映すればいいのに。プリント焼く金出しても日活のプリントになっちゃうんだから、日活から買い戻せばいいんじゃないの。日活が持っていてもしょうがないんだから。そしたらDVDにもできるし、商売にしようがあるじゃない。

井上;当時だから脚本は出口出のクレジットですよね。そしたら荒井晴彦の幻のデビュー作っていう売りにしても大丈夫ですか。

荒井:いやあ、それは恥ずかしいな。

井上:森さん、その『濡れた賽の目』ってまだ状況劇場にいた根津甚八さんの初主演作なんですよ。

森:唐十郎さんが監督した『任侠外伝 玄界灘』(1976年)で、スクリーンに映る根津さんを初めて観ました。それが根津さんの映画デビューだと思っていたけれど、その前に若松さんが撮っていたんですか。

荒井:初めてなんじゃないかな。で唐さんにギャラ百万とか言われて、「吹っ掛けすぎじゃないの、喧嘩しよう」って言って、若松さんと二人で、唐十郎をゴールデン街中さがして、結局ふたりで酔っ払って倒れてたけど。

井上:しかも『濡れた賽の目』は1972年に撮っているんでしょ。製作費がかかりすぎてオクラになっていたんですよね。

荒井:何かの裏ルートで日活に買ってもらったんだよ。

白石:ますます見たいなあ。

荒井:しかも日活では田中登の『秘色情めす市場』(1975)の併映だったんだよ。もう、失礼しましたっていう感じで、俺、打ちのめされました。

森:『秘色情めす市場』は圧倒的な傑作です。そういえば小室等さんから、ゴールデン街で状況劇場と天井桟敷が毎晩のように喧嘩していた話は聞いていたけれど、若松孝二もそこにいたのか。

井上:若松プロと状況劇場もけっこうやっていたらしいですよ。

荒井:足立さんが空手をやっているからね。

森:足立さんも喧嘩っ早いんですか。

荒井:けっこうやっていたんじゃないかな。

井上:でも若松さんって意外に喧嘩やってないんですよね。

森:崔洋一さんが、本気で喧嘩したら一番怖いのは、俺でもゴジでもなくて若松さんだって言ってた。

荒井:うまいんですよ。道具を持つのも。飲み屋で呑んでて、すっとその辺の灰皿を取って頭にボーンと行くからそれは勝ちますよ。先手必勝って言っていたけどね。喧嘩ってそうなんだって。

森:それはたしかに実戦的だ。

白石:それはもうやくざの喧嘩の仕方ですよ(笑)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

姜卓君被告(本人SNSより)。右は現在の靖国神社
《靖国神社にトイレの落書き》日本在住の中国人被告(29)は「処理水放出が許せなかった」と動機語るも…共犯者と「海鮮居酒屋で前夜祭」の“矛盾”
NEWSポストセブン
公選法違反で逮捕された田淵容疑者(左)。右は女性スタッフ
「猫耳のカチューシャはマストで」「ガンガンバズらせようよ」選挙法違反で逮捕の医師らが女性スタッフの前でノリノリで行なっていた“奇行”の数々 「クリニックの前に警察がいる」と慌てふためいて…【半ケツビラ配り】
NEWSポストセブン
「ホワイトハウス表敬訪問」問題で悩まされる大谷翔平(写真/AFLO)
大谷翔平を悩ます、優勝チームの「ホワイトハウス表敬訪問」問題 トランプ氏と対面となれば辞退する同僚が続出か 外交問題に発展する最悪シナリオも
女性セブン
2025年にはデビュー40周年を控える磯野貴理子
《1円玉の小銭持ち歩く磯野貴理子》24歳年下元夫と暮らした「愛の巣」に今もこだわる理由、還暦直前に超高級マンションのローンを完済「いまは仕事もマイペースで幸せです」
NEWSポストセブン
ボランティア女性の服装について話した田淵氏(左、右は女性のXより引用)
《“半ケツビラ配り”で話題》「いればいるほど得だからね~」選挙運動員に時給1500円約束 公職選挙法で逮捕された医師らが若い女性スタッフに行なっていた“呆れた指導”
NEWSポストセブン
傷害致死容疑などで逮捕された川村葉音容疑者(20)、八木原亜麻容疑者(20)、(インスタグラムより)
【北海道大学生殺害】交際相手の女子大生を知る人物は「周りの人がいなかったらここまでなってない…」“みんなから尊敬されていた”被害者を悼む声
NEWSポストセブン
医療機関から出てくるNumber_iの平野紫耀と神宮寺勇太
《走り続けた再デビューの1年》Number_i、仕事の間隙を縫って3人揃って医療機関へメンテナンス 徹底した体調管理のもと大忙しの年末へ
女性セブン
チャンネル登録者数が200万人の人気YouTuber【素潜り漁師】マサル
《チャンネル登録者数200万人》YouTuber素潜り漁師マサル、暴行事件受けて知人女性とトラブル「実名と写真を公開」「反社とのつながりを喧伝」
NEWSポストセブン
白鵬(右)の引退試合にも登場した甥のムンフイデレ(時事通信フォト)
元横綱・白鵬の宮城野親方 弟子のいじめ問題での部屋閉鎖が長引き“期待の甥っ子”ら新弟子候補たちは入門できず宙ぶらりん状態
週刊ポスト
大谷(時事通信フォト)のシーズンを支え続けた真美子夫人(AFLO)
《真美子さんのサポートも》大谷翔平の新通訳候補に急浮上した“新たな日本人女性”の存在「子育て経験」「犬」「バスケ」の共通点
NEWSポストセブン
自身のInstagramで離婚を発表した菊川怜
《離婚で好感度ダウンは過去のこと》資産400億円実業家と離婚の菊川怜もバラエティーで脚光浴びるのは確実か ママタレが離婚後も活躍する条件は「経済力と学歴」 
NEWSポストセブン
被告人質問を受けた須藤被告
《タワマンに引越し、ハーレーダビッドソンを購入》須藤早貴被告が“7000万円の役員報酬”で送った浪費生活【紀州のドン・ファン公判】
NEWSポストセブン