なんでこの役者たちは心酔しているんだろう

井上:だけど白石までは若松さんは助監督と映画をつくっていったわけですよね。「お前ら、どう思う」とか言って現場でも助監督を怒鳴り倒して、現場をシメるみたいな。でも『実録・連合赤軍』以降、白石が離れてから、若松さんは役者と映画をつくるようになったんじゃないですかね。

荒井:なるほどね。だからそれまではそうじゃないんだよ。口うるさいブレーンがいっぱいいたからさ。脚本も映画もそれなりのものになっていた。

井上:だから『実録・連合赤軍』で白石と大日方さんが助監督で付かなくなったというのは大きかったのかな。

白石:それで新さんとか満島(真之介)さんとかにすごく頼ってそこを起点に映画を作っていたんですよね。

荒井:それまではアクションシーンなんかでも最初は作りものを持たせておいて、本番になったら、ほんとうの木刀でやらせるとかね。そうして役者が「痛い痛い」って言うシーンをカメラでまわしたり、処女喪失シーンでも足をつねるとか、そういう演出ともいえないことをやっていた人だから。なんでこの役者たちは心酔しているんだろうなっていう不思議な感じがあるわけです。

井上:でもそれは違うと思いますよ。一緒に作っていたということが他とは違う体験だったんじゃないですか。それにやっぱり若松さんには、役者をソノ気にさせる力があったと思いますよ。それだって、立派な演出力じゃないですか。

荒井:いやいや、だけど『実録・連合赤軍』で加藤兄弟の一番下の「勇気がなかった」っていう台詞にはあきれる。それが、総括リンチの総括かよって。あさま山荘と似ても似つかない自分の別荘を建て替えるついでに撮影しちゃおうという映画が、なんでヒットしたのかなあ。

白石:でも『実録・連合赤軍』から新さんたちと映画つくりが始まったわけで、それでいうと時代を知っている、知っていないという中でのそれまでの演出の仕方とたぶん違ったと思うんですよ。自分が見てきた時代をやってもらっているわけだから。そこでの言葉の持つ説得力とか強さって間違いなくあったはずなんで。それは俳優たちが大丈夫だと言われて、また、映画としてもヒットしたこともそうだし、国際映画祭に行ったり、映画自体もすごく幸せな映画になったことは、彼らにとってもすごくいい成功体験になったんじゃないかと思います。

(了)

◇構成/高崎俊夫

 ◆劇場情報 このトークライブが行われたのは「あまや座」です(於・2020年7月28日)。茨城県那珂市瓜連1243スーパーあまや駐車場内(http://amaya-za.com/)

【プロフィール】
●荒井晴彦/1947年、東京都出身。季刊誌『映画芸術』編集・発行人。若松プロの助監督を経て、1977年『新宿乱れ街 いくまで待って』で脚本家デビュー。以降、『赫い髪の女』(1979・神代辰巳監督)、『キャバレー日記』(1982・根岸吉太郎監督)など日活ロマンポルノの名作の脚本を一筆。以降、日本を代表する脚本家として活躍。『Wの悲劇』(1984・澤井信一郎監督)、『リボルバー』(1988・藤田敏八監督)、『ヴァイブレータ』(2003・廣木隆一監督)、『大鹿村騒動記』(2011・阪本順治監督)、『共喰い』(2013・青山真治監督)の5作品でキネマ旬報脚本賞受賞。他の脚本担当作品として『嗚呼!おんなたち猥歌』(1981・神代辰巳監督)、『遠雷』(1981・根岸吉太郎監督)、『探偵物語』(1983・根岸吉太郎監督)など多数。また監督・脚本作品として『身も心も』(1997)、『この国の空』(2015)、『火口のふたり』(2019・キネマ旬報ベストテン・日本映画第1位)がある。

●森達也/1956年、広島県出身。立教大学在学中に映画サークルに所属し、テレビ番組制作会社を経てフリーに。地下鉄サリン事件と他のオウム信者たちを描いた『A』(1998)は、ベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭でも上映され世界的に大きな話題となった。続く『A2』(2001)で山形国際ドキュメンタリー映画祭特別賞・市民賞を受賞。は東日本大震災後の被災地で撮影された『311』(2011)を綿井健陽、松林要樹、安岡卓治と共同監督。2016年にはゴーストライター騒動をテーマとする映画『Fake』を発表した。最新作は『新聞記者』(2019・キネマ旬報ベストテン・文化映画第1位)。

●白石和彌/1974年、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、『明日なき街角』(1997)、『完全なる飼育 赤い殺意』(2004)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005)などの若松作品で助監督を務める。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビュー。2013年、ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』が、第38回報知映画賞監督賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞・脚本賞などを受賞。その他の主な監督作品に、『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『牝猫たち』(2017)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)、『サニー/32』(2018)、『孤狼の血』(2018)、『止められるか、俺たちを』(2018)、『麻雀放浪記2020』(2019)、『凪待ち』(2019)など。

●井上淳一/1965年、愛知県出身。大学入学と同時に若松孝二監督に師事し、若松プロ作品に助監督として参加。1990年、『パンツの穴・ムケそでムケないイチゴたち』で監督デビュー。その後、荒井晴彦氏に師事。脚本家として『くノ一忍法帖・柳生外伝』(1998・小沢仁志監督)『アジアの純真』(2011・片嶋一貴監督)『あいときぼうのまち』(2014・菅乃廣監督)などの脚本を執筆。『戦争と一人の女』(2013)で監督再デビュー。慶州国際映画祭、トリノ国際映画祭ほか、数々の海外映画祭に招待される。ドキュメンタリー『大地を受け継ぐ』(2016)を監督後、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』で脚本を執筆。昨年、監督作『誰がために憲法はある』を発表。

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