森:大学生をやりながら助監督をやれって言われたんですか。

井上:そうなんです。給料払えないから親の金で生活しろと。白石さんは?

白石:ぼくは映画のスタッフになりたかったんですよね。それで中村幻児監督がやっていた映像塾っていうところに行っていて、そこの顧問が深作欣二監督と若松孝二監督だったんですよ。そこにいる時にまさに佐野史郎さん主演の『標的 羊たちの悲しみ』(1996年)っていう映画なのかⅤシネなのかがあって、それのときに助監督の大日方教史さん、今作のプロデューサーなんですけど、大日向さんひとりしかいなくて、若松さんが困って、誰か手伝える奴いないかっていうんで、ぼくが手を上げて現場へ行ったのがすべての始まりです。ぼくは、若松作品は見ていましたけど、若松プロ以外じゃありえないみたいな感じでは正直なかったんですけど。

第60回ベルリン国際映画祭に出品された「キャタピラー」で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した女優の寺島しのぶさん(中央)。トロフィーを手に笑顔を見せる。左は共演者で俳優の大西信満さん、右は若松孝二監督(時事通信フォト)

第60回ベルリン国際映画祭に出品された『キャタピラー』で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した寺島しのぶと並ぶ若松孝二監督。左は共演者の大西信満(時事通信フォト)

荒井:あの映像塾から白石以外、誰か映画監督って出ている?

白石:どうだろう。誰もいないんじゃないかなあ。監督になった人はいないかもしれないですね。

井上:森さんはなんか若松さんとのエピソードはないんですか。

森:うーん。佐藤真っていう同世代のドキュメンタリー監督が自殺というか事故死というか亡くなったとき、偲ぶ会を青山の青年会館でやって、そのときにぼくは受付にいたんですね。時間になってセレモニーも始まって、じゃあもう受付をしまおうかなと思ってたら、若松さんが階段を駆け上がってきて。たしかベルリン映画祭に行ってるから、若松さん、来れないよって聞いていたんだけど、ぼくの顔を見て、「真が死んだって、ほんとうなのか? バカヤロー」って言いながら中に入っていって。はっきりじゃないけれど、泣いていたような気がするな。その前にもいろいろ呼ばれたり話したりしていたけど、あれがほんとうに生の若松孝二だっていう感じで、すごく印象に残っています。

井上:あと森さんと若松さんと園子温さんでトークをやって、森さんと園子温さんが喧嘩したんですよね。

森:喧嘩っていうんじゃなくて、園子温が何度もからんできたから頭にきてこっちもそういう戦闘態勢になったら、若松さんがオロオロっていう感じで、逆にそれが不思議でね。天下の若松孝二がこんなに困ったみたいな感じで「ちょっとトーンを下げようよ」みたいに言ってきたから逆にびっくりしちゃったということはありましたけどね。

井上:なんか若松さんらしいなあ。

森:そういうところもあるわけでしょ。でもたぶんそれが自分にお鉢が回ってきたら、いきなり灰皿で相手の頭を殴ってくるわけだよね。

井上:でもこの映画の取材で足立さんが「若ちゃんはそういう伝説はあるけど、実際にはやらないよ」と言ってました。

森:でもどうやって伝説をつくるんだろう、実際にやらないで。

白石:一回やったことがすごくいっぱい何回もやったことになっているんじゃないですか(笑)。まったくやってないっていうことじゃないと思いますけどね。

井上:荒井さん、こんなに若松さんのことを人前で話したのって初めてじゃないですか。でもどうしてこんなに若松さんを大好きなのに、嫌いだっていうポーズを取り続けちゃったんですか。

白石:ほんとうにそうですよ。いい迷惑(笑)。

荒井:いやあ、あんまりみんなで神話化するからさ。そうじゃないよっていう。若松孝二という人間は面白いけど、映画は面白くないって言ってるだけだよ。

白石:そんなに神話化させているつもりはないですけどね。

井上:逆にこの『止められるか、俺たちを』で若松さんが神話じゃなくなったんじゃないですか。本来、こうやって映画になると神話になるはずなのに。それはないですか。

荒井:どうなんだろう。あなたなんかを見ていると心酔の仕方というのがね、カリスマ性というのか、そういうのが、ええって思うだけで。あの人の言うことってわかりやすいっていえばわかりやすいじゃない。それがすーっとあんなに役者にしみこむじゃない。あなただったり井浦新だったりさ、それがわりあい不思議でさ。

白石:でも、それは慕われていたっていうことでいいじゃないですか。

井上:監督として役者にそうやって慕われる言葉を持っていたってすごくないですか。

荒井:そうお。

井上:そうおって言われると(笑)。

白石:じゃあ今度、『火口のふたり』の主演の瀧内久美に荒井さんのこと大好きだってよく言えっていう話をしておきますよ。

荒井:いいよ。俺、そういうの困るよ(笑)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン