森:大学生をやりながら助監督をやれって言われたんですか。
井上:そうなんです。給料払えないから親の金で生活しろと。白石さんは?
白石:ぼくは映画のスタッフになりたかったんですよね。それで中村幻児監督がやっていた映像塾っていうところに行っていて、そこの顧問が深作欣二監督と若松孝二監督だったんですよ。そこにいる時にまさに佐野史郎さん主演の『標的 羊たちの悲しみ』(1996年)っていう映画なのかⅤシネなのかがあって、それのときに助監督の大日方教史さん、今作のプロデューサーなんですけど、大日向さんひとりしかいなくて、若松さんが困って、誰か手伝える奴いないかっていうんで、ぼくが手を上げて現場へ行ったのがすべての始まりです。ぼくは、若松作品は見ていましたけど、若松プロ以外じゃありえないみたいな感じでは正直なかったんですけど。
荒井:あの映像塾から白石以外、誰か映画監督って出ている?
白石:どうだろう。誰もいないんじゃないかなあ。監督になった人はいないかもしれないですね。
井上:森さんはなんか若松さんとのエピソードはないんですか。
森:うーん。佐藤真っていう同世代のドキュメンタリー監督が自殺というか事故死というか亡くなったとき、偲ぶ会を青山の青年会館でやって、そのときにぼくは受付にいたんですね。時間になってセレモニーも始まって、じゃあもう受付をしまおうかなと思ってたら、若松さんが階段を駆け上がってきて。たしかベルリン映画祭に行ってるから、若松さん、来れないよって聞いていたんだけど、ぼくの顔を見て、「真が死んだって、ほんとうなのか? バカヤロー」って言いながら中に入っていって。はっきりじゃないけれど、泣いていたような気がするな。その前にもいろいろ呼ばれたり話したりしていたけど、あれがほんとうに生の若松孝二だっていう感じで、すごく印象に残っています。
井上:あと森さんと若松さんと園子温さんでトークをやって、森さんと園子温さんが喧嘩したんですよね。
森:喧嘩っていうんじゃなくて、園子温が何度もからんできたから頭にきてこっちもそういう戦闘態勢になったら、若松さんがオロオロっていう感じで、逆にそれが不思議でね。天下の若松孝二がこんなに困ったみたいな感じで「ちょっとトーンを下げようよ」みたいに言ってきたから逆にびっくりしちゃったということはありましたけどね。
井上:なんか若松さんらしいなあ。
森:そういうところもあるわけでしょ。でもたぶんそれが自分にお鉢が回ってきたら、いきなり灰皿で相手の頭を殴ってくるわけだよね。
井上:でもこの映画の取材で足立さんが「若ちゃんはそういう伝説はあるけど、実際にはやらないよ」と言ってました。
森:でもどうやって伝説をつくるんだろう、実際にやらないで。
白石:一回やったことがすごくいっぱい何回もやったことになっているんじゃないですか(笑)。まったくやってないっていうことじゃないと思いますけどね。
井上:荒井さん、こんなに若松さんのことを人前で話したのって初めてじゃないですか。でもどうしてこんなに若松さんを大好きなのに、嫌いだっていうポーズを取り続けちゃったんですか。
白石:ほんとうにそうですよ。いい迷惑(笑)。
荒井:いやあ、あんまりみんなで神話化するからさ。そうじゃないよっていう。若松孝二という人間は面白いけど、映画は面白くないって言ってるだけだよ。
白石:そんなに神話化させているつもりはないですけどね。
井上:逆にこの『止められるか、俺たちを』で若松さんが神話じゃなくなったんじゃないですか。本来、こうやって映画になると神話になるはずなのに。それはないですか。
荒井:どうなんだろう。あなたなんかを見ていると心酔の仕方というのがね、カリスマ性というのか、そういうのが、ええって思うだけで。あの人の言うことってわかりやすいっていえばわかりやすいじゃない。それがすーっとあんなに役者にしみこむじゃない。あなただったり井浦新だったりさ、それがわりあい不思議でさ。
白石:でも、それは慕われていたっていうことでいいじゃないですか。
井上:監督として役者にそうやって慕われる言葉を持っていたってすごくないですか。
荒井:そうお。
井上:そうおって言われると(笑)。
白石:じゃあ今度、『火口のふたり』の主演の瀧内久美に荒井さんのこと大好きだってよく言えっていう話をしておきますよ。
荒井:いいよ。俺、そういうの困るよ(笑)。