そこから2か月もの期間が空いたこと、また、土曜21時台ではなく日曜19時台からのスタートに切り換えたところに『M-1』対策の狙いが透けて見えます。フジテレビは劇場版の記録的ヒットを踏まえて、「これ以上ないほどの強敵に、これ以上ないほどの特番をぶつけられた」のでしょう。
ただ、それでもフジテレビの人々が「『M-1』に勝てる」と本気で思っているかは疑問です。『M-1』は芸人たちが人生を賭けた年に一度のガチンコバトルであり、何が起きるかわからない生放送であることも含め、リアルタイム視聴向きの番組。一方の『鬼滅の刃』はすでにテレビシリーズの第22~26話として放送・配信されていたものであり、さらにフジテレビでも10月24日に一挙放送するなど、物語としての新しさはありません。
また、もともとアニメは「クオリティが高いほど“保存版”として録画されやすい」というタイプのコンテンツであり、「絶対に生放送で見たい」というタイプの『M-1』とは真逆。視聴人数はさておき、リアルタイム視聴をベースにした視聴率という観点では、かなり分が悪い戦いなのです。
決勝に至る流れを楽しめる『M-1』の強み
だからこそフジテレビは、前回放送で好評だったプレゼント企画「鬼滅の刃キャラクターコレクション」を今回も実施。番組を視聴するごとに画面上でキャラクターカードが得られ、その枚数に応じて、「柱合会議ランダムアクリルスタンド全9種セット」「竈門禰豆子1/8スケールフィギュア」が当たるという仕掛けを用意しました。
つまり、「リアルタイムで見なければプレゼントに応募できませんよ」ということであり、ファンたちを「録画もするけどリアルタイムでも見なきゃ」という心境にさせているのです。
しかし、『M-1』もリアルタイムで見てもらうための仕掛けに抜かりはありません。「ネタ順をその都度“笑神籤(えみくじ)”を引いて決める」というドキドキの演出を手がけるほか、「どん兵衛3ケース分」などの豪華賞品が当たる「3連単 順位予想キャンペーン」を企画しているのです。
ただ、そんな仕掛け以上の強みとなりそうなのが、流れを重視した大会運営。まず7月末に公式ホームページで『M-1への道~東京開幕編~』をライブ配信したほか、2回戦や準々決勝のネタもネット上で配信し、準決勝は生中継のライブビューイングを開催しました。
さらに20日の14時55分~17時25分には16組の芸人による『敗者復活戦』(朝日放送・テレビ朝日系)も放送され、ここでは「視聴者の審査で決勝進出者が決まめる」という楽しみもあります。多くの人々が『M-1』を追いかけ、楽しめる環境を整えたことで、「20日の決勝はこの4か月あまりの集大成としてリアルタイムで楽しもう」という思考にさせているのです。
また、昨年のミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱがハイレベルな戦いを見せ、今年大活躍したことも期待感アップにつながっているのではないでしょうか。やはり、どんなに『鬼滅の刃』が人気でも、視聴率という観点では『M-1』の優位は揺るぎそうにありません。
ともあれ、各家庭ではひさびさに「どちらの番組を見るか?」の論争になりそうですし、「大画面のテレビで『M-1』を見て、小画面のスマホで『鬼滅の刃』を見る」という人も増えるでしょう。視聴率の勝敗はさておき、コロナ禍で外出を控えるムードが漂っているだけに、両番組の相乗効果で相当な盛り上がりが期待されます。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。