国内

溝口敦x鈴木智彦「正月飾りもお祭りもヤクザの仕事だった」

正月飾りは「地域がヤクザを養う」時代には特別な意味があった(pixta)

正月飾りは「地域がヤクザを養う」時代には特別な意味があった(pixta)

 柳田國男は日本人の伝統的な世界観には「ハレとケ」があると論じた。ハレは非日常を、ケは日常を表し、儀礼や祭り、年中行事など「ハレ」の日には、晴れ着をまとって酒肴を楽しみ、歌舞音曲を愛でるのが日本人のならわしである。その「ハレ」と切っても切れない関係にあったのが、日本社会に深く根を張る「ヤクザ」だった。

『週刊ポスト』(2020年12月21日発売号)では、「ヤクザと正月」と題して、ともにヤクザ社会に造詣が深いノンフィクション作家の溝口敦氏とフリーライターの鈴木智彦氏が対談している。正月にまつわるヤクザの伝統や独特の風習を語り合い、近年の暴力団取り締まりの強化によって、そうした行事も縮小されている現状を明らかにした。

 正月はもちろん「ハレ」の代表格だが、ヤクザは「ハレ」をシノギ(金儲け)にしてきた集団である。地域社会に根付いた祭りや神事、年中行事には必ずヤクザが絡んでいた。対談では、ヤクザが「ハレ」に食い込んでいった歴史も語られたが、本誌では収録しきれなかった。その興味深いくだりをNEWSポストセブン読者にお届けする。

 * * *
溝口 江戸末期には、ひとつの町で6~7人の火消しを抱えなくちゃいけなくて、そこで集めた若い衆、町奴(町人出身の侠客)みたいな連中をまとめる人がいて、それを「親分」と呼んだわけです。そして親分には、若い衆を抱えていれば町から補助金が出た。親分は火消しだけやっていたわけじゃなくて、町のあちこちに目を光らせて、工事がありそうだと思えばそれを請け負い、解体とか鳶なんかを若い衆にやらせて日銭をピンハネしていた。それと同時に、浅草のような盛り場では、店に正月飾りを販売して、今で言う「みかじめ料」を取ったわけです。それとは別に、若い衆も屋台で……

鈴木 正月飾り売りの小屋! ありましたね。最近までスーパーの前とか敷地の中でもやっていました。個人でも買うし、もちろん付近のお店にもセールスに行ってたでしょう。誰も言わないけど、正月飾りというのは地域の独占利権なんですよね。今でこそスーパーやコンビニが安い飾りを売るようになったけど、少し前まではヤクザの独占だった。

溝口 火消しの親分が出てきた江戸時代には、町屋は町屋、侍や旗本もそれぞれ火消し人足を抱えていたでしょう。それぞれ対立したりもしたけど、ほとんどの町では、そこに住む富豪が町奴を支配することが多かった。だけど浅草だけは新門辰五郎(しんもんたつごろう)という親分が仕切っていた。新門一家というのは今もある。

鈴木 ありましたね、新門一家。

溝口 その新門辰五郎が浅草寺に露店も立てるし、猿回しとか薬売りからカネを取るから経済力があって、商人に頭を下げなかった。それが原型になって、ヤクザ独自のシノギの目処がついてきたんじゃないのかな。

関連記事

トピックス

山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン