また、さらに必見なのが、殺されたのがどの彼女で、誰が嘘をついているかなど、事件に関する結構な核心が、適宜挿入される雑誌の誌面を通じて明かされる点だ。
「つまり女性エイトという架空の雑誌を模した誌面が、連載中は『女性セブン』に載ったわけです。その体裁が嘘を本当っぽく見せ、ミスリードに貢献したりもした。極端な話ですが、エンタメは結末より、途中が面白いのが一番! 僕はそう思っているんです」
と、内容の紹介一つにも困難が伴う本作ではあるが、件の身元不明死体の捜査と、咲希が同郷の友人〈今野里香〉に誘われるまま若さを金に換え、何かを失ってゆく様は、やがて友映たちの警察顔負けの取材もあって、悲しく残酷な像を結ぶ。
特に咲希の場合は父親がリストラに遭い、退職金でコンビニを始めたものの、最近は仕送りもままならず、日夜バイト漬けの彼女を見かねた里香が紹介したのが、〈パパ活アプリ〉や〈財前〉という美容外科医だった。
が、複数のパパと食事や旅行を楽しむ里香に対し、咲希はアプリで会った自称社長にやり逃げされ、葉山にクルーザーまで所有する一見ダンディな財前も人が見ていないと興奮できない性質と、つくづく運がない。
10人に1人がパパ活経験者
それでも大学に通い続けるために〈月極めパパ〉や〈食事パパ〉を求め、〈ギャラ飲み〉で稼ぐ彼女たちは今やより好条件な〈太パパ〉を玄人と取り合う存在に。中には若い夢を純粋に支援したがるパパもいるらしく、パパ活界の敏腕ブローカー〈早坂翠〉に助言を仰いだ咲希は、単に学費や家賃のためでは太パパの心は掴めないと釘を刺されるのだ。
「パパ活も金額や肉体関係の有る無しまで様々ですが、本当にお金に困っている子が食事だけで1万もらえたら、やってもおかしくないと思うんです。実際に取材で話を聞くと、父親が厳しすぎたり、母子家庭だったり、リアルな父親が与えてくれないものを、金銭的、精神的に埋めている感じさえあった。それほど今は父性が不在なのかもしれず、10人に1人が経験者とも言われる現象は現象として、書き記しておこうと。
『スマホを落としただけなのに』で盗まれるのなんて4ケタのパスワードです。今だったらあり得ないけど、書かれた時代さえ明確なら、いずれは作中に保存された事物が歴史的価値を持ち、作品の寿命を逆に長らえる場合もあると思うので」