そしてそこで求められる演技を東山が完璧にこなしているとSYO氏は評価する。
「こういった物語の構造のため、出演者には『リアクション芸』と『ギャップの演技』が求められます。他の人の行動に対して取り乱したり、それを悟られぬように取り繕ったり……。本音と建前といいますか、すました顔と慌てた顔に差があればあるほどコメディとして成立するわけです。
東山さんはまさに適任で、我々がよく知るクールな表情からの、怯えたり焦ったり、テンパり具合への“落差”が、新鮮な驚きを与えてくれます。パブリックイメージを逆手に取った、東山さんの顔面七変化に注目です」(SYO氏)
また、同じく本作を鑑賞した映画評論家の石津文子氏は、東山の“中年男の可愛らしさ”に見どころがあると指摘する。
「東山さんは、さえない独身男の三平役を演じていますが、最初に出てくるだけで“こいつはダメそうだ”というのがよくわかります。今までも『喰いタン』や『平成夫婦茶碗』などでコメディには出演していましたが、あくまで端正なルックスとのギャップを楽しむところがありました。ロボットみたいな雰囲気を利用していて笑わせるというか。
まだまだ若々しいとはいえ、東山さんも50代になって人間的な魅力が表情にも出てきたおかげで、『おとなの事情』では三平の人の良さとおかしみ、なかなか本心を言えない情けない感じがよく出ています。彼はある秘密を抱えていて、それをなかなか明かせないシリアスさと、基本的にとてもドジであるという設定を、無理なく東山さんは見せています。中年男の可愛らしさがありました」(石津氏)
50歳を超えて、新境地を開拓している東山。今年もますます活躍を見せてくれそうだ。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)