認知機能が落ちた大島さんが不自由な体にイライラを募らせ「死んだ方がましだ!」と叫ぶ傍らで、介護うつで体重が15kg落ちた小山は心身の不調で入退院を繰り返した。このままでは夫婦共倒れになってしまう−−そんな危機を救ったのは一冊の本だった。
「当時、上智大学の名誉教授だった哲学者のアルフォンス・デーケンさんの『よく生き よく笑い よき死と出会う』という本を読み、地位や名誉を『手放す心』の大切さを知ったんです。
それまでは女優というステータスがあるから、病院に行くのも誰かの目を気にしたり、つねにきれいな服を着なければと思っていたけれど、手放す心を学び、自分は目の前の命と生きていく1人の女なのだと気づきました。考え方が変わったことで周囲のバリアがなくなり、私自身も解放されたんです」
周囲の目を気にしなくなった小山は、それまで「映画監督と女優だから」と足を運ぶことを避けていた回転寿司にジーパン姿で夫を連れて訪れるようになり、介護にもユーモアを持ってのぞめるようになったという。
「大島が自暴自棄になって『死にたい』と言えば、『あら、死んじゃったら、明日のおいしいビールもご飯も食べられないね』と明るく返していました。もともと彼もユーモアのある人なので、しだいに家庭に笑いが戻ってきました。彼が病気になってから、夫婦の絆はさらに強くなりました」
穏やかな時間を取り戻した夫婦は、2010年10月に金婚式を迎える。小山にとって忘れられない思い出だ。
「夫が倒れたときは、金婚式なんてとても無理と思ったけど、親しい知人や家族ら30人ほどが集まり、とても楽しい会になりました。大島もすごくうれしそうで、乾杯の音頭をとる前に、お酒に口をつけていたのを覚えています」