もちろん、親同士の間にも、不穏な空気が生まれていた。ただし、大人としてそれは口にしてはいけないという暗黙の了解もある。しかし、子供達にはそんな不文律など理解できるはずがない。親の意向で練習や試合に参加しなくなった子供達を、参加する子供達が非難し始めたというのである。当然、不参加になった子供達は、自分がそう決めたわけではないにも関わらず非難をされることには納得ができない。嫌みを言うだけだったのが掴み合いに発展するなど、チームは空中分解寸前だという。
「感染再拡大で、首都圏に緊急事態宣言が発令され、大会はやはり中止。でも、子供達は直前まで練習を続けていたんです。一方で、中止になったからと言って、はい残念でしたとみんなの仲が戻るわけでもない。すでにチームを辞めてしまった子供もいます。こんなことで、才能を発揮出来ない、生かせない子供達がいるのかと思うと不憫で仕方がない」(依田さん)
コロナの影響で、スポーツの才能を生かせないことが、一生を左右するかもしれないという事例も起きている。
神奈川県在住の主婦・財津美由紀さん(仮名・40代)は、陸上部で活躍する中学生3年生の娘が、自身の将来に悲観しているのだと訴える。
「小学校時代から足が早く、地元の陸上クラブからも誘われ、このままいけば陸上の特待生として高校にも進学できると、指導してくれる先生達から太鼓判をもらっていました。娘もその気になり、文武両道でゆくのだと勉強以外の時間はほとんど陸上の練習に費やすほど没頭。以前は何事にもやる気を見せなかった娘がと、私も主人と抱き合って喜んでいたんです」(財津さん)
ところが、一昨年の秋、練習中に怪我を負ってしまい、参加予定だった大会への出場が叶わなくなってしまった。それでも本番は3年の夏。それまでに良い成績を出し、強豪校へのアピールをすれば良い。実力的にも時間的にも、十分に間に合う。そう思っていたところにコロナ禍がやってきた。春の大会も、中学3年生にとっては最後の夏の大会も全て中止に。一度つまずいてしまった財津さんの娘が、再び自身の才能を発揮する機会がゼロになってしまったのである。
「娘は泣きじゃくり、もう陸上はやれない、やりたくもないと半ば投げ出してしまったんです。それでも先生方が気をかけてくれて、セレクションや、学校の部活外での大会に呼んで頂いたりしまして……。一応、何校かから声をかけて頂きました」(財津さん)
とはいえ、本当に目指していた「特待生」として娘を迎え入れてくれる学校はなく「推薦」という形になったが、娘はやはり納得がいかない様子だという。