繰り返しになるが、これらの人たちは医師に「自宅療養で大丈夫」と判断されたわけではない。「入院が必要な危険な容体」なのに、病院のベッドがいっぱいで入れないのだ。待機者のなかには高齢者や基礎疾患を持つ人も含まれ、非常に危うい。現実にもう医療崩壊は起きている。
広島県では、12月12日に感染が判明し、自宅待機中だった60代男性が14日深夜に死亡した。男性には糖尿病や心筋梗塞の既往歴があり、14日に入院が必要かを確かめるために病院で診察を受けていた。結果、自分で歩ける状態であったことなどから当日入院は見送られ、翌日の入院に向けて調整中だったという。
「高齢者施設内で入院の待機を余儀なくされるケースも生じている」
1月6日に開かれた厚労省の専門家組織の会合後、そう指摘したのは座長を務める脇田隆字・国立感染症研究所長だ。最もハイリスクな人々が集う高齢者施設での入院待機は、一歩間違えれば最悪のクラスター発生につながる。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんはその理由を、「保健師のオーバーワークが一因」と指摘する。
「自宅療養や自宅待機をさせる際は、保健師が感染者と定期的に連絡を取り、異変を感じたら早めに介入して入院などの手配をすることが何よりも大切です。しかし現状では、保健師は国が進めるクラスター対策のための濃厚接触者探しに忙殺され、感染者のケアにまで手が回りません。結果として、病状が悪化しても迅速に対応できず、亡くなる人が出ていると考えられます」
この先はさらなる地獄が待っている。
「感染者が激増する一方、病床やホテルは簡単に増やせず、この先も自宅待機は増えていくはずです。それとともにしっかりした準備を施さなければ、感染者が自宅で死亡するケースも増えていくと考えざるを得ません」(中村さん)
※女性セブン2021年1月28日号