「これまでの投資が無駄になる」
日本経済への配慮から五輪開催を訴える声もある。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が語る。
「中止すれば約3.2兆円の経済波及効果が失われ、これまでの投資もすべて無駄になってしまいます。科学技術などさまざまな面で“コロナを克服した”とアピールできなくなるのも日本にとって痛手でしょう。これまで五輪開催国では確実にその後のインバウンドが増えている。たとえ無観客で参加選手が限られたとしても、開催することが重要です。
ただし五輪開催で再び緊急事態宣言を出すようなことは避けなければならない。ワクチンの効果や今後の感染状況を見極める必要はありますが、現時点で中止と決め込むのは早計です」
自民党都連最高顧問で郵政大臣、通産大臣などを歴任した深谷隆司氏も開催への努力を尽くすべきと語る。
「世界の感染状況を見て、最終的に決定するのは5月ごろでいいと思っています。大事なのは、開催するためにどうやってコロナを抑え込むか、全身全霊をかけて取り組む姿勢を世界に見せることです。
日本が本気度を示すには法改正に取り組むこと。現在の強制力のない緊急事態宣言では、どんな対策を講じても世界を納得させられない。憲法改正で緊急事態条項を整えることを、ぜひ与野党で議論してもらいたい」
「セレモニーなんてなくていい」
「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」――2004年アテネ五輪の体操・男子団体決勝など、数々の名実況で知られる元NHKアナウンサーの刈屋富士雄氏は「五輪という日本の未来の財産を失ってはいけない」と強く主張する。
「五輪には経済効果より大事なことがある。それは真剣に戦うアスリートたちが創り出す心揺さぶるシーンです。五輪でしか味わうことができない張り詰めた空気の中で選手が見せる一瞬にして永遠の煌めきを目撃する機会を失うのは日本の若者にとって大損失です。
セレモニーなんてできなくてもいいし、観客制限も仕方ない。しかし、せめて10代の若者たちだけでも会場に招いて現場の空気を体験してもらいたい。そこで感じたインスピレーションが、その人の人生を変え、未来を変えていくことにつながるかもしれない。