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伊集院静氏が語る 初の時代小説で描いた「忠臣蔵」の謎と美学

伊集院静氏が新作の時代小説について語る

伊集院静氏が新作の時代小説について語る

【著者インタビュー】伊集院静氏/『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』(上・下)/KADOKAWA/各1700円+税

 驚くことに伊集院静氏、初の時代小説は、大石内蔵助良雄及び、〈四十八番目の志士〉の働きに光を当てた、今までにない忠臣蔵だった。

「私自身、海外出張などで読むのは時代小説が多いし、いつかこういう肩の凝らないただただ面白い作品を書いてみたかった」

 題して『いとまの雪』。

〈生きるは束の間、死ぬはしばしのいとまなり〉との山鹿素行の教えを体現するかのように忠義を全うした47士プラス1の物語を通じて、氏はその奇跡にも近い計画を成功に導いた物理的、経済的な要因に迫る一方、彼らの一途さがなぜ人々を魅了し続けるのか、美学の問題をも問うてみせる。

「彼らは損得や効率は求めない。あとは物事の多寡やサイズも求めない。どんなにちっぽけでもそれが真の忠心からの死であれば大きさは関係ないんだと、そういう世界のお話なんです」

 昨年1月にくも膜下出血で倒れ、緊急手術。その後順調に回復し、各種連載も順次再開しつつある中での復帰後初小説の刊行である。

「元々これは新聞連載で、書いたのは倒れる前ですね。最近はゴルフも普通にやるけれど、何となく謙虚って概念を脳の中に忘れてきた気がしなくもない(笑い)。

 まあそれはそれとして、ある史実の中に物語を探るのが時代小説だとしたら、赤穂事件の経緯は大半の人が知っている。そのわりに謎や空白が多いのも事実で、実は専門家と事前に会議をした時も私は純粋に疑問を投げかけたんです、『こんな仇討ち、1人でも裏切り者がいたら成功しませんよ』と。

 元禄15年12月14日、本所松坂町に移った吉良の屋敷では上野介が殺せと言わんばかりに待ち受けていて、47士のうち剣を使えるのは19人程度。それなのに、警護に雇った傭兵が外を固める中、19対250の状況で首を取るなんて、普通に考えたらあり得ない。しかも、どんな刺客も半年も経てば金がなくなり騒ぎ出すのに、1年半も潜伏するなんて、資金はどう調達したんだ?と。

 そうした経済的観点から、赤穂藩の勘定方家老ながら途中で逃げ出したと言われる大野九郎兵衛に注目した。『皆さん彼を不忠臣扱いするけど、子孫はどうしてるの?』と専門家に聞いたら、大野家の一族は今もって赤穂に戻れていないらしい。『でも先生が書けばたぶん大野家は救われます』って誰かが言うんで、だったら救ってやれと思ってね(笑い)」

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