車中泊でも快適の「柔軟シート」
クルマ本来の使い方とは少しずれるが、長旅の中で思わぬ長所を実感する機会もあった。それは車中泊における寝心地の良さだ。
軽自動車の多くは前席のヘッドレストを外し、前に寄せて背もたれを倒せば簡易フルフラットになるが、寝心地はモデルによってかなりの差がある。シートバックが固いクルマだと就寝中に凸凹が体を圧迫するし、シートベルトのバックルの埋め方が悪いと寝返りを打った時にそれが体に当たって目覚めてしまったりする。
その点、N-WGNの寝心地は抜群に良かった。シートバックの柔軟性が普通車のミニバンのように高く、体重で凸凹がならされるので、寝ているときの違和感が少ない。バックルも体に当たらない。
軽ながら車中泊も快適なホンダ「N-WGN」
試乗車にはLEDヘッドランプが装備。ビームはハイ/ロー自動切換え式
もちろん設計者は寝心地の向上を意図したわけではなく、純粋に衝撃吸収性を高めようとしただけなのだろう。その成果は周遊を含めて片道1500kmという長旅において、疲労が非常に少ないという形で表れている。それが寝心地の良さという副産物も生んでいることは、旅好き、車中泊派にとっては喜ばしく感じられることだろう。
荷室にはボードが装備され、二段収納も可能
超激戦区の軽自動車マーケット
軽自動車マーケットにおいて、背丈が160cm台のトールワゴンは170cm超のスーパーハイトワゴンに次ぐ激戦区。現在、軽自動車を自前で出しているのはスズキ、ダイハツ、ホンダ、日産三菱連合の4陣営だが、日産三菱連合がやや価格が高いのを除くと、標準的な装備を持つモデルでおおむね120万円から140万円というレンジで戦っている。
価格、装備の両面でN-WGNの直接的なライバルとなるのはダイハツ「ムーヴ」やスズキ「ワゴンR」だが、ダイハツには「タフト」、スズキには「ハスラー」というSUVモデルもあり、それらも価格的にはバッティングする。
ダイハツ「ムーヴ」(時事通信フォト)
スズキ「ワゴンR」(時事通信フォト)
日産「デイズ」も強力なライバル(時事通信フォト)
それらのライバルと比較して、N-WGNは内外装のデザイン性については際立ったところがなく、ワゴンRのノーマルモデルと並んで地味そのもの。インテリアについては見た目の質感やタッチ、収納スペースの数、シートアレンジの多彩さ等々、ライバルに後れを取っているところがいろいろある。
一方で長距離走行での疲れの少なさ、高速走行における乗り心地の良さと安定性、そして自然吸気エンジンのパワーは、2021年1月現在販売されている競合モデルの中では最も優れていた。その基本性能とステアリングのアクティブ制御ありのADAS標準装備という特質を136万円で実現させるために、目に見えるところをバッサバッサと切ったという感があった。