国際情報

大前研一氏 根深いトランプ後遺症でバイデン政権は4年もたない

バイデン大統領はどう舵取りをするか(イラスト/井川泰年)

バイデン大統領はどう舵取りをするか(イラスト/井川泰年)

 大統領選挙の結果をめぐって、社会的に大きく分断されたアメリカ合衆国。新任したバイデン大統領のもとで、国力を立て直せるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、トランプ後遺症に悩まされる新政権のゆくえについて考察する。

 * * *
 アメリカの分断は深刻だ。今回の大統領選でも、スイングステート(民主党と共和党の支持率が拮抗し、選挙の度に勝利政党が変動する州)以外は、シリコンバレーなどにハイテク産業が集積している西海岸の州と金融・メディカル・アカデミック関連産業が中心の東海岸の州は青(民主党)、ラストベルト(錆びついた工業地帯)をはじめとする衰退した製造業が多い中西部と南部の農業地帯の州は赤(共和党)にくっきり色分けされた。

 言い換えれば、基本的に民主党はインテリ層と中間所得層、共和党はプア・ホワイト(貧しい白人)とごく少数の大金持ちの党になっているわけで、アメリカは従来の人種差別問題に加え、そういう地域格差によっても国民が分裂し、USA(ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ)ではなく、「DSA(デバイデッド・ステーツ・オブ・アメリカ)」になっているのだ。

 所得格差は世界的に拡大しているが、とくにアメリカは著しい。年間平均所得は上位1%(約240万人)の富裕層が約1億5000万円で、下位50%の低所得層(約1億2000万人)が約190万円とされている。

 トランプ前大統領は、そういう低所得層の人々の不満や鬱屈した潜在意識を呼び起こした。貿易赤字が拡大しているのは「中国が盗んでいるからだ」として中国からの輸入品に制裁関税を課し、雇用が増えないのは「メキシコからの不法移民が安い賃金で働いているからだ」としてメキシコとの国境に「壁」の建設を始めた。アメリカが抱えている問題のすべてを他国のせいにし、それを居丈高に非難・攻撃して相手から譲歩を引き出すことで人気を高めようとしたのである。

 しかし彼は「世界の最適地で生産し、最も高く買ってくれるところで売る」というボーダレス経済の基本原理を全く理解していない。たとえば、いまスマートフォンやパソコン、複写機などのサプライチェーンは、ほぼ日本、中国、台湾、韓国の東アジア4か国で成り立っている。もし、その中でアメリカに雇用を持っていくとすれば最終組立工程だけであり、それは付加価値が極めて低い上にアメリカは人件費が高いから、企業は採算が合わなくなる。

 ことほどさようにトランプ前大統領の政策は破茶滅茶かつ生産的でないため、在任中の4年間でアメリカの国力は大きく低下した。しかし、他国を叩いて留飲を下げることを覚えた人々の意識は、急には変わらない。この“トランプ後遺症”は実に根深いと思う。

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン