――どういうことでしょう?
知念:もちろん、アナフィラキシー(注1)のような副反応のリスクは、ゼロではありません。報道が危険性にも目を配り、周知する役割は当然あると思っています。
ただその場合、本来なら〈打つリスク〉と〈打たないリスク〉の両方について正しい情報を併記し、これによって国民一人一人が打つ、打たない、という判断をできるよう環境を整えるのが使命のはず。しかし実際はデマを織り交ぜて、リスクを強調した見出しの躍る記事がしきりに掲載されています。
【注1:アレルギーの原因物資が体内に入ることで、複数の臓器が強い過剰反応を起こすこと】
「予防にならない」ではなく「データがそろっていない」
――リスクを強調した記事とは?
知念:例えばある週刊誌では、医師へのアンケート調査の回答が「接種する」と「種類によって接種する」を合わせ6割近いのに、あえて「すぐ接種3割」という見出しを掲げて報じた記事がありました。あたかも7割が「接種しない」と答えたかのように誤読を誘う印象操作です。
――ワクチンは通常、「効果」と「安全性」で評価されるが、そうした評価にも誤りがあった?
知念:ワクチンの効果について、別の雑誌が掲載したのは「感染予防にはならない!」と強調する見出しの記事。先ほど、ファイザーとモデルナのワクチンでは90%以上の有効性が確認されたと述べましたが、これは感染症を発症させない、『発症予防効果』についてです。この記事が問題にしているのは他者からの感染自体を予防する『感染予防効果』に関するもので、この点については有望なデータがそろいつつあるものの、まだ最終的なデータは発表されていません。
つまりは、「予防にならない」ではなく「データがそろっていない」というのが正確なところです。断定的に「感染予防効果なし」とするのは科学的なデータに裏付けられていない言説です(注2)。
【注2:発症しない病原体保有者が多数いるコロナの場合、ワクチン投与群とワクチンを打っていない偽薬投与群を数万人単位で比較して「感染予防」ができたかどうか検証することが難しい、という課題もある】
新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける千葉労災病院の岡本美孝院長(左)=2月17日午後、千葉県市原市(時事通信フォト)
――安全性の評価では「誤情報」が流れたということでしょうか。
知念:気になったのは、「実験台にされる」という懸念を強調した記事で、〈新しい技術を使う〉という側面が誇張されていることです(注3)。
確かに、生ワクチンのような従来の技術とは違って実用化は初めてのことですが、治験終了前の技術としては以前から安全性が確立されてもいた。このことも同じように報道すべきです。
【注3:ファイザーとモデルナのワクチンに共通するのは、メッセンジャー(m)RNAを使う点である。ウイルスの表面に突き出ている「とげ(スパイク)」の部分のタンパク質の遺伝情報(設計図)を投与することで、体にこの設計図を読ませてスパイクタンパク質を作り、さらにこのタンパク質に対する免疫反応を誘導する】
また今回、米国ではジョー・バイデン大統領や英国ではボリス・ジョンソン首相といった各国のトップが率先して投与を受け、84歳の教皇フランシスコや94歳の英国女王エリザベス2世のような高齢のVIPも続きました。すでに1回目の接種を済ませた人は1億人を超えています。
外国人に安全でも日本人にも同じとは限らない、と言う人がいますが、米国では、日系を含む何万人ものアジア系の住民も接種していて、彼らに特異的に副反応があったという報告も出ていません。ファイザー製のワクチンについては日本人を対象にした治験も行われました。もはや『実験台』などという表現は当てはまらないのです。