――1年で治験を終えるのは早過ぎではないか、という印象もある。

知念:確かに、通常ならワクチン開発には10年はかかる。今回が異例の開発スピードであったことは事実だと思います。ただ、経過を見るとそれには理由があると思います。

 第1に、各国政府が思い切った資金を投じ、製薬メーカーは経営上のリスクを考える必要がなく、短期間で治験にまで持ち込めたこと。第2に、昨年夏以降、英米などで感染爆発が起きたこと。皮肉なことですが感染者が増えたことでワクチンの効果を検証する治験が一気にはかどり、効果を確認できた。そうでなければ、接種開始はもっと遅くなっていたかもしれません。

ワクチンは弱者のためにある

――なぜ知念さんは、メディア報道の検証に力を注いでいるのでしょうか。

知念:ワクチンは弱者のためのものです。接種した人の体だけを守るものではなく、一人でも多くの人が打つことで集団免疫を獲得することに大きな意味がある。これによって救われるのはこの流行で弱い立場に立たされている人たち――重症化リスクの高いお年寄りがそうですし、部活ができない高校生や学費のためのアルバイトができない大学生もそうです。

 不条理を終わらせ日常を取り戻すためにも、1人でも多くの大人が接種を受けて『免疫の壁』を作ることが、ウイルスを社会から排除できるほぼ唯一の道と言っていい。

 メディアが権力が暴走しないよう監視することは大切だとは思います。しかし、その視線はワクチンそのものというよりワクチンを調達して体制を整えた政府の手続きに不備はなかったか等に注がれるべきではないでしょうか。ここまで述べた一部の週刊誌報道はその意味で、力を入れるポイントがズレているように感じます。

 チェックすべきは、日本でなぜここまで接種が遅れたのか。メーカーとの正式契約でワクチンの納品の期限が半年も後ろ倒しになったのはなぜか(政治家に手抜かりはなかったか)。そもそも危機管理のための基礎研究に資金を注いでこなかった政府は、準備が足りなかったのではないか――といった点です」

――ワクチンを巡って改めてメディアによる医療情報の中途半端な理解やいい加減な報道が目立っている。

知念:私たち医師が発信する場合、基本的には英語の論文を読み、その根拠としています。単に読むだけではなく、論文に掲示されている統計の取り方やデータの解釈におかしいところはないか、吟味した上でなければ発信は控える。なぜならばその発信が一度でも誤ってしまえば、人の死に直結しかねないからです。

 以前、血圧が220という状態で診察に来られた患者さんがいました。「このままだと命に関わるから」と何度伝えても「雑誌に血圧は下げるなと書いてあった」と降圧治療にあらがった。その人には大きな病院も紹介したのですが、紹介先でも平行線が続き、その数か月後に脳出血で亡くなりました。

 正しい情報を伝えても信じるのは本人の自由で医師でも強制はできない。それだけメディアの信頼度というのは高いもので、だからこそ報道する側には信頼に足るだけの情報の正確さへの感度を持っていただきたいのです。

関連記事

トピックス

大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
理論派として評価されていた桑田真澄二軍監督
《巨人・桑田真澄二軍監督“追放”のなぜ》阿部監督ラストイヤーに“次期監督候補”が退団する「複雑なチーム内力学」 ポスト阿部候補は原辰徳氏、高橋由伸氏、松井秀喜氏の3人に絞られる
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
(公式インスタグラムより)
『ぼくたちん家』ついにLGBTのラブストーリーがプライム帯に進出 BLとの違いは? なぜ他の恋愛ドラマより量産される? 
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
《出所後の“激痩せ姿”を目撃》芸能活動再開の俳優・新井浩文、仮出所後に明かした“復帰への覚悟”「ウチも性格上、ぱぁーっと言いたいタイプなんですけど」
NEWSポストセブン
”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン