ライフ

南相馬市のクリーニング会社 東日本大震災を乗り越え成長続ける理由

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 企業や商品を愛してくれるファンを大切にすることをベースにして、中長期的に売り上げや事業価値を高めていく「ファンベース」という考え方がある。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、まさにファンベースによって東日本大震災を乗り越え、成長してきた福島県南相馬市に本社があるクリーニング会社の事例を紹介する。

 * * *
 東日本大震災が起きてからもうすぐ10年になる。南相馬市に本社がある北洋舎クリーニングは、2015年で震災前の売り上げを超え、復興をけん引してきた。公共投資に関係する企業以外では珍しいことだ。それができたのも、働く人や地域を大事にするファンベースという考え方があったからだろう。

 北洋舎の高橋美加子社長には、ぼくもお世話になっている。福島第一原発から20キロ圏の中にある南相馬市の小高地区に支援に入ったとき、高橋社長に人を集めてもらい、どんな支援が必要か聞き取りをした。

 高橋社長が関わっている「つながろう南相馬」という住民組織から、被災者たちの閉塞感を和らげてほしいと、講演を依頼されたこともある。そのとき、サプライズゲストとして、さだまさしさんを連れて行った。避難所の体育館に、なんと1000人以上が集まった、その光景は今でも忘れられない。

 北洋舎は震災前、「早くて、安い」を売りものにする全国チェーン店に負けそうになっていた。それでも、丁寧な仕事をすることでファンをつなぎとめていた。

 震災後、チェーン店は撤退。厳しい状況のなかで、社員を一人も辞めさせず、むしろ働き方改革を進め、学齢期の子どもをもつ社員が働きやすいように勤務時間を変更したりした。工場も、2度にわたって働きやすい環境に変えた。希望があれば、撤退したチェーン店の元社員も雇った。

 さらに、高橋社長は地域の子どもたちが安全に勉強できたり遊んだりできるよう、環境改善運動や文化活動など、地域貢献してきた。これも、ファンの心をつかむ結果になったように思う。

 長く続く不景気に、コロナ禍が加わった今、厳しい状況を乗り越えるのは、こうしたファンを多く持ち、地域から信頼される企業だと思う。

【プロフィール】
鎌田實(かまた・みのる)/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2021年2月26日・3月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
若隆景
序盤2敗の若隆景「大関獲り」のハードルはどこまで下がる? 協会に影響力残す琴風氏が「私は31勝で上がった」とコメントする理由 ロンドン公演を控え“唯一の希望”に
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン