江本氏、アントニオ猪木氏が参院選に打って出た当時、まだまだアスリート議員は好奇の目で見られた(時事)
一方で、アスリート議員には過去にスキャンダルが取り沙汰された例が多いことも事実。橋本氏の「キス写真」について、高橋選手が「セクハラとは考えていない」と答えたから問題ないという擁護論もあるが、その論理が通用するなら、世の中で被害を訴えられずにいるセクハラ被害者を見捨てることになる。当時の橋本氏は日本オリンピック委員会(JOC)の選手強化本部長であり、一選手の高橋氏にとっては雲の上の存在で、自分の競技人生を左右できる強大な権力の持ち主だった。高橋氏がマスコミに囲まれて「セクハラとは考えない」と言ったからOKというのなら、多くの権力者のセクハラ行為も、被害者を圧力で黙らせてしまえば無罪放免になる。キス擁護論は、セクハラ問題の一丁目一番地に戻ってしまったような時代錯誤であり、ますます「日本は性差別にもハラスメントにも鈍感な国」と見られて五輪に悪いイメージがつきかねない。
江本氏は、スポーツ界の慣例が政治の世界や一般社会で受け入れられないことを認めたうえで、アスリート議員は実は弱い立場なのだと主張する。
「アスリート議員やタレント議員たちは、よく国会のことを『塀のない刑務所』と呼んでいました。重要な役職に就くことはハードルが高い半面、目立つ存在だから批判されやすいし、マスコミには派手に書かれてしまう。野球では“ベンチがアホやから”と言えても、国会で言えばエライことになります。
国会議員というのは、さまざまな分野の利益代表として活動します。日本医師会や建設業界から推されて出てくる議員は、組織の力で選挙を戦い、支持団体の力で役職に就いたりできます。しかし、アスリート議員はそうではない。スポーツ界の利益のために働いても、スポーツ界に組合があって組織票を出してくれるわけではないし、献金をもらえるわけでもない。あくまで国民に広く支えられて当選してくるわけです。どんなに頑張っても自分で納得するしかないのがアスリート議員の難しいところなんです」
確かにアスリート出身だからといって色眼鏡で見られることはあってはならない。それも深刻な差別である。だからこそ橋本氏には、後進のアスリート議員のためにも、しっかり実績を残すこと、国民や世界からの疑問に真摯に答えることを期待したい。