演説会場には、議事堂乱入にも参加した過激団体の姿が(AA/時事通信フォト)
もちろん、民主党への攻撃も手を抜いていない。バイデン大統領を「バイデン」と呼び捨てにし、引き続き「昨年の大統領選挙で私たちは勝った」と繰り返した。バイデン政権の移民政策では、外国の犯罪者とギャングを無制限に国に入れることになるとか、コロナワクチンは自分が作ったものだが、バイデン政権はその供給に失敗している、などと矢継ぎ早に批判した。多くのアメリカ人は、バイデン氏の政策が犯罪者やギャングを無秩序に増やすものとは考えていないし、トランプ政権がワクチンの供給計画を全く作っていなかったことも知っている(これは大きな批判を受けた)。しかし、演説に聞き入る聴衆たちは違う。いつものようにマスクも着けずに密着して熱狂している様子は、トランプ氏のアジテーションと挑発が効果的に響いているようである。
今回の中継では、かつてトランプ・チャンネルと呼ばれたFOXニュースの報道が目立った。総じてトランプ氏に対して好意的に紹介している。大統領選挙の開票速報でいち早くトランプ落選を伝えたことから関係が悪化していたが、先日はタイガー・ウッズの交通事故の直後に、FOXの番組にトランプ氏が出演してインタビューに応じるなど、元の鞘に収まりつつある。一時はトランプ氏に見切りをつけたと言われていたオーナーのルパート・マードック氏が、最近になってトランプ氏と水面下で接触し、和解したという情報も筆者の元に入っている。2人はもともと、保守的な言動やビジネス重視の姿勢で共通点は多い。トランプ人気が健在であるなら、マードック氏はその看板スターを失いたくないだろうし、引き続きFOXが全面支援するなら、トランプ氏は自らチャンネルを立ち上げる必要もなくなるかもしれない。ウィン・ウィンである。
リベラル派はもちろん、トランプ・マジックから覚めた保守派にとっても、今回の演説は大統領経験者の威厳や品格を感じさせないものだったが、一方で、熱烈なトランパーズの勢いが衰えていないこともはっきり示した。
■佐藤則男(ニューヨーク在住ジャーナリスト)
