芸能

『花束みたいな恋をした』が“リアル”で“刺さる”深い理由

興行収入は20億円突破間近(公式ホームページより)

興行収入は20億円突破間近(公式ホームページより)

 映画『花束みたいな恋をした』(1月29日公開)のヒットが続いている。「傑作」との呼び声も高い同作の魅力について、映像作品に造詣が深い小説家・榎本憲男氏が考察する(*本記事は作品のネタバレを含みます。記事の後半で映画の内容に触れていますのでご注意ください)。

 * * *
 菅田将暉と有村架純が出演する『花束みたいな恋をした』(脚本:坂元裕二 監督:土井裕泰)が爆発的なヒットを記録し、なおも快進撃を続けている。業界が驚いているのは、この大ヒットが、インディペンデントの制作会社が企画し、大手ではない配給会社によって達成されたという点だ。さらに、すでに成功した漫画や小説の原作によるものではなく、オリジナル脚本による恋愛映画であることも注目を集めている。

 同じ興行収入に到達したとしても、「順当にヒットするべくしてヒットした」や「ノーマークだったがヒットした」や「まさかここまでとは思いもよらなかった大ヒット」のようにさまざまである。『花束みたいな恋をした』は3番目の典型だろう。

「ノーマーク——」「まさかここまで——」のようなヒットが出ると、業界やマスコミは「なぜ」を分析し始める。ただ、オリジナル脚本による本作には、原作の人気という原動力は見いだせない。さらに有村架純と菅田将暉というキャスティングによる動員もここまでのヒットの説明にはならない。

 僕の周辺でこの映画を見た若者の感想は「リアル」で「刺さる」につきる。「刺さる」という言葉は、僕の若い友人がネットでつぶやいた言葉からいただいた。彼は本作を「ここ10年で見た映画のベストワン」と絶賛し「自分たちが生きてきた時代の空気感や匂いが初めて映画になった気がする」とまで言っている。

 ポップスのような同時代性がこの映画にはあるのだろう。映画の中で有村架純が歌ったきのこ帝国の「クロノスタシス」のYouTube上のPVのコメント欄は、映画に関連した投稿がずらりと並んでいる。さらにTwitter上で「カップルで見に行かないほうがいい」という評判が湧いたのも、「リアル」で「刺さる」からこそであろう。

『花束みたいな恋をした』は“時を超えてめぐりあう”などのファンタジーでなく、“また不治の病を患う”などの“飛び道具”を用いた悲恋でもない、本作では、都市に暮らす平凡な若者の、彼らの周辺にいくらでも見いだせるリアルな恋愛模様が展開される。僕はこの作品のヒットを「リアルさ」と刺さり具合の「深さ」に見る。リアルであるからこそ刺さる。リアルであるからこそ、その刺さり具合は深い。そして、このリアルさに日本社会の暗い影が色濃く射している気がするのである。

 

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン