国内

世の中「させていただく」だらけ 敬意のインフレをどう捉えるべきなのか

「させていただく」は敬意が盛り盛りの言葉。広がった背景を法政大学の椎名美智教授に聞いた

「させていただく」は敬意が盛り盛りの言葉。広がった背景を法政大学の椎名美智教授に聞いた

 ビジネスの場で、あるいはテレビなどのメディアで、「させていただく」という言葉を見聞きしない日はない。なぜ、「させていただく」はこれほど使われるようになったのか?「させていただく」はそもそも、正しい敬語なのだろうか?敬語は人との距離を示す言葉であり、言葉は世を映す鏡である。「させていただく」を使うことで、私たちは何を得て、何を失っているのか──。「させていただく」ブームの背景について、『「させていただく」の語用論 人はなぜ使いたくなるのか』(ひつじ書房)の著者である法政大学の椎名美智教授に話を聞いた。

※ ※ ※

「禁止させていただく」「努力させていただく」になぜ違和感を覚えるのか?

──「させていただく」の使用について、先生が違和感を覚えたり、これは間違っていると感じる使い方はありますか?

椎名:どんな使われ方をしていても、間違っていると感じるより、分析して面白がる気持ちのほうが強いですね。こうした本(『「させていただく」の語用論』)を出しているので、私の前で使うのを控える方もいらっしゃるのですが、決して『「させていただく」警察』ではありません(笑)。言葉は生物(ナマモノ・いきもの)、変わっていくものですから、自分が習ったときの意味や用法にこだわっていると、言語感覚が古くなってしまうと思います。

 ただ、私だったら違う言い方をするだろうな、と思うことはあります。たとえば、駅などで見る、飲食を「禁止させていただく」などといったポスターの文言です。決定権があるのはあちら側なのに、こちら側に決定権があるかのように書かれているので、偽善的な印象を受けます。「申し訳ありませんが、ここでは~できません」という表現でいいと思うんです。またツイッターで、菅総理が「最大限努力させていただきます」と書かれていたのが、ちょっと気になりました。謙虚な表現ですが、「努力」は人に許可されてするものではなく、自発的に行うものなので、ここは「最大限努力します!」と言い切ってほしいですね。

──「させていただく」は現在、誰かに敬意を払うというより、使っておけば丁寧で問題ない、みたいな感じで使われるケースも多いように感じます。そもそも「させていただく」はどのような言葉なのでしょうか?

椎名:分解すると、「させて」と、“もらう”の敬語である「いただく」から成る言葉です。意味を見ていくと、「させて」で、人から何らかの「許可」をもらい、「いただく」で、人から何らかの「恩恵」を受ける。つまり本来は、許可や恩恵をもらう「他者=あなた」を前提とした言葉です。「あなたの許可を得て、ありがたいことに~をいただく」ということです。

 しかし現在では、ついに相手を必要としなくなったというか、他者がいなくても使われるようになってきています。同時に、本来は自発的に行う行為に対しても、「させていただく」が使われるようになっています。それが先ほど挙げた、「努力させていただく」ですね。もはやどんな動詞にも付けられる助動詞になっていますよね。

──はい。どんな動詞にも付けられるから便利で、つい使ってしまいます。

椎名:その便利さが、ここまで広がった要因の一つだと思います。たとえば「食べる」だと、尊敬語は「召し上がる」で、謙譲語は「いただく」。敬語には言葉自体が変わるものがありますが、「させていただく」は、前に付ける言葉を変える必要がなく、うしろに付けるだけでいいんです。主語が常に「私」である、という点も大きいと思いますね。

関連キーワード

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン