誰であれ霞を食っては生きられません。生活費を稼がねばならない。差別に直面した人たちは、かつてなかなかまっとうな仕事に就けませんでした。行き詰まった人間たちが現状を打破しようと爆発し、経済的成功を手にするためヤクザとなった一面は確かに存在しました。少子化の進む日本が大々的に移民政策をとるなら、未来のヤクザは移民たちの二世、三世から生まれるでしょう。

 環境は子供に強い影響を与えます。周囲にヤクザがいれば、将来、ヤクザになる子供たちが育ちます。今でもヤクザの力が強いのは、かつて根深い同和問題があった地域です。指定暴力団が西日本に集中し、分布数が西高東低となったのもそのためです。

 私はまだ二十五年しかヤクザの実態を追いかけていませんが、取材を振り返っても、ヤクザが社会の下層から根を生やしていると実感できます。

『実話時代BULL』には、毎月、最低でも一人、現役ヤクザのインタビュー・特写グラビアが載りました。親分インタビューでは定型的な質問のひとつとして、必ず趣味を訊きました。酒、女、麻雀、競輪、競馬、ボートレース、車やバイク、パワー・ボートにジェット・スキー、錦鯉や骨董の蒐集なども多かった。芸術を趣味にしたヤクザもいます。書画を描いたり、篆刻を彫ったり、写真を撮ったり……山口組と並ぶ神戸発の広域団体だった本多会は、のち大日本平和会となり解散しましたが、有力団体である至誠会の竹形剛は、作務衣を着てろくろを回し、陶芸展を開催しました。

 しかし、1000人の親分に訊いても、カラオケで演歌を熱唱するのが好きな人はごまんといたのに、クラシック音楽のレコードを鑑賞したり、コンサートやオペラを観に行ったり、ピアノや楽器演奏を趣味とした人はひとりもいなかった。わずかひとりもです。クラシックの素地がなければ、カラヤンが指揮するベルリン・フィルハーモニーの演奏だって喫茶店のBGMにしかならない。自分で人生を選んだつもりでも、育った環境がヤクザの決定を操っている。金を掴んだヤクザの子供からは、世界的な芸術家も生まれています。ヤクザが、貧困の連鎖を断ち切る手段となった証明です。

 抗争で暴力性を喧伝し、格付けを手にしたヤクザはどうやって稼ぐのか。任侠道や我慢、自己犠牲といった美学の裏側に何があるのか。彼らの本性を突き止めれば、ヤクザが職業なのか、生き方なのかもはっきりするでしょう。

※溝口敦/鈴木智彦著『職業としてのヤクザ』(小学館新書)より一部抜粋

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