大手ジェネリック医薬品メーカー「日医工」の不祥事は大きな衝撃を与えた(写真/時事通信社)
薬剤師の深井良祐さんは「医師によっては『この薬は絶対にジェネリックに変えてはいけない』と指定する場合すら存在する」と指摘する。
「例えば、気管支ぜんそくの患者さんに使われる貼り薬はゆっくり溶けて薬効成分が体に入り、長時間血中濃度を保つことが重要であるため、先発薬の『ホクナリンテープ』を指定するケースが多い。有効成分は同じでも、ジェネリックの薬は一気に溶けてしまい、危険であると指摘する医師が多いのです」(深井さん)
申さんも、かつて医療現場において先発薬をジェネリック薬に切り替えた患者が、命にかかわるような事例を経験した。
「心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈が発作を起こして縮む『冠攣縮性狭心症』を患っていた60代女性のケースでした。血管を拡張させる作用を持つ『カルシウム拮抗薬徐放剤』で発作を抑えていたのですが、先発薬をジェネリックに変えた直後、急に胸の痛みを訴えて救急病院に搬送されたのです。幸いにも回復しましたし、先発薬に戻してすぐに容体は安定しましたが、一時は危険な状態でした」
その後、申さんが受け取った救急病院の報告書には、「処方をジェネリック薬に変更して発症したと思われるので、もとの処方に変えてほしい」と書かれていた。
「『カルシウム拮抗薬徐放剤』は少しずつ有効成分が溶け出して作用するため、先発薬を使っていたときは冠動脈が縮まないようにギリギリの状態で広げていたのが、ジェネリック薬に変えた途端に戻ってしまい、わずかな効き方の違いで発作を抑えられなかったと考えられます。循環器の病気では、数値に表れない部分でそうした危険があります」
命を救ってくれるはずの薬が、自分の首を絞めているとしたら、これほど恐ろしいことはない。
気をつけるべき点はほかにもある。日本ジェネリック製薬協会の発表によれば、現状コスト削減のために約6割の原料を海外に頼っている。先発薬も同様に約半数が海外頼みではあるものの、ジェネリック薬が作られる海外の工場は劣悪な環境のケースもある。
実際、アメリカでは中国で製造したジェネリック薬の降圧剤から発がん性物質が検出されたり、インド製の高脂血症治療用のジェネリック薬にガラス片が混入する事故が報告されたりとトラブルは後を絶たない。
「日本のジェネリック薬も原料の4割は中国とインドに頼っています。たとえ薬の安全性の国際基準であるGMP(適正製造規範)を守っていたとしても、実際に工場を視察してみたらハエがたかっていたという報道もありました。ジェネリック薬製造メーカーの中には規模が小さく人手が少ない会社もあるため、国内外すべての工場に監査の人員が派遣できているかは疑問が残ります」(鳥集さん)
松山さんも、原薬(薬の有効成分となるもの)の製造を国外に委託することの危険性を指摘する。
「外国で主薬原料を作り日本に安価で輸入したものを製品化する場合、主薬の品質保証がなされていないことがあります。2013年には韓国の原薬メーカーである『SSファーマ』がGMP(薬の安全性の国際基準)を満たしていないとして、製造を委託していた国内ジェネリック薬メーカー11社が製造中止に追い込まれた事例もあります」(松山さん)