「もともと彼は世界選手権への出場すら迷っていました。喘息持ちということもありますが、自分が出場することでファンやメディア関係者が押し寄せ、そこでコロナ感染が起きてしまったら大変なことになる。オーサーコーチによれば、GPシリーズのNHK杯(2020年11月)への出場は羽生選手自身が望まなかったそうです」(スポーツジャーナリスト)
世界選手権はコロナ対策のため無観客で開催され、「バブル方式」と呼ばれる完全隔離体制が敷かれた。これは、開催地を大きな泡ですっぽり覆うようにして選手や関係者と外部との接触を遮断するシステムで、ホテルと試合会場がつながっていて、その間の行き来だけしかできない。食事も選んだメニューが部屋の前に置かれるスタイルで、人との接触はほとんどない状態だった。
「完全な対策をとっていたにもかかわらず、世界選手権では3人の陽性者が出てしまった。不安なのは国別対抗戦もスターズ・オン・アイスも有観客で行われることです。世界選手権を見ればわかるように、どんなに徹底しても感染者が出てしまう可能性がある。それでも羽生選手が出場を決めたのは、よほどの思いがあるからではないでしょうか」(前出・スポーツジャーナリスト)
東北の皆さんとの約束
羽生選手はこれまではアイスショーなどへの出演を避ける傾向があった。
「五輪や世界選手権のように、シーズンの目標としてそこに向けてピークを合わせるわけではないので、けがなどの様子も見ながら、いいパフォーマンスができる状態にないときは、出場を辞退するようにしていたようです」(別のフィギュアスケート関係者)
だが、今年の「スターズ・オン・アイス」は羽生選手にとって、絶対に欠場できないものなのだという。
「特に強い思いを寄せているのが、八戸公演です。八戸公演は昨年4月に多目的アリーナ『FLAT HACHINOHE(フラット八戸)』のこけら落としで行われるはずでしたが、コロナの影響で延期を余儀なくされてしまった。
フラット八戸は東日本大震災で大きな被害を受けた青森県八戸市、ひいては東北全体の復興を象徴する施設。自らも被災者であり、復興支援に力を注いできた羽生選手としては、東北の皆さんとの約束を果たすためにも、“開催されるなら、絶対に出る”という強い思いがあるのでしょう」(前出・フィギュア関係者)
八戸公演は、東北地方の県民を対象にチケットが先行販売されている。羽生選手が出演するとなれば、東日本大震災からの復興を象徴するイベントとして、大いに注目を集めることは間違いない。
もう1つ、羽生選手には「勝負師として狙いがある」との見方もある。4回転アクセルの挑戦の場を少しでも増やすことだ。羽生選手は徐々に手ごたえをつかみ始めているという。12日に放送された『報道ステーション』(テレビ朝日系)で、松岡修造(53才)が4回転アクセルへの挑戦について聞くと、こう答えた。
「昔はがむしゃらに、3回転アクセルの延長線上で頑張ってやれば回れるんじゃないかみたいな感じがあったんですけど、最近“4回転アクセルは跳び方が違うんだな”ということを感じ始めました。
その跳び方がやっと4回転アクセルらしくなってきたんですよね。だから別物のジャンプとしていまは考えていて、やっとその段階までいけたなというふうに思っています。絶対にやってやるんだという気持ちはあります」