芸能

柳家三三 見事な語り口を堪能できる“大ネタ二席”の落語会

プレミアム独演会から見えた柳家三三の魅力とは(イラスト/三遊亭兼好)

プレミアム独演会から見えた柳家三三の魅力とは(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、『鰍沢』に『百年目』と大ネタ二席を堪能できた柳家三三プレミアム独演会についてお届けする。

 * * *
 3月29日、よみうり大手町ホールで「柳家三三プレミアム独演会 三三協奏曲2021年春」を観た。昨年秋に始まったこの企画のサブタイトルは「三三の奏でに聴き入る・浸る」。コンセプトは“長講二席ネタ出し”で、2回目となる今回は『鰍沢』『百年目』だった。

 日蓮宗の本山である身延へ参詣した旅人が雪山で遭難、訳ありの美女が暮らす荒れ家で命拾いしたはずが命を狙われる羽目になるサスペンス落語『鰍沢』。俗に三遊亭圓朝作と言われていたが、実際には狂言作者の河竹黙阿弥が「玉子酒、筏、熊膏薬」の三題噺として創作し、圓朝が演じたものだという。

 三三の師匠である小三治は2007年10月、上野鈴本演芸場での最後の独演会で『鰍沢』を演じたが、2009年公開のドキュメンタリー映画『小三治』には、その開演前の楽屋で入船亭扇橋が小三治に「旅人が訪ねてきたときの女の返事こそ『鰍沢』の急所だ」と語る場面がある。

 女の返事は高い調子ではなく、あくまで低く抑えたトーンの「誰?」であるべきだというのである。小三治は、まさにそのように演じた。そして三三も、訝しむような表情と共に「はい……なんです?」と、低いトーンで女に答えさせた。この声音に「心中し損ないの花魁が隠れ住んでいる」という女の身の上が凝縮されている。

 印象に残ったのは旅人が逃げようとしているのに気付いた女の台詞。ここでは毒を呑んだ亭主が死ぬものと決めつけて「お前の仇はあの旅人だ!」と言うのが普通だが、三三は亭主が死んだという描き方はせず、女に「あれに逃げられたらこっちの身が危ない。何より百両持ってるんだ。鉄砲貸しとくれ、ブチ殺してくるから!」と亭主に語りかけさせた。つまり“口封じ”と“金目当て”の両方で殺しに行くのである。このほうが遥かに自然な解釈だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
渡邊渚さんが綴る「PTSDになった後に気づいたワーク・ライフ・バランスの大切さ」「トップの人間が価値観を他者に押しつけないで…」
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
ルーヴル美術館での世紀の強奪事件は瞬く間に世界を駆け巡った(Facebook、HPより)
《顔を隠した窃盗団4人組》ルーブル美術館から総額155億円を盗んだ“緊迫の4分間”と路上に転がっていた“1354個のダイヤ輝く王冠”、地元紙は「アルセーヌ・ルパンに触発されたのだろう」
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(共同通信社)
《四つん這いで腰を反らす女豹ポーズに定評》元グラドル・森下千里氏「政治家になりたいなんて聞いたことがない」実親も驚いた大胆転身エピソード【初の政務三役就任】
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン