これから定期的に記者に修行をつけていくという
僕は、楽しいと思うことが、一番早く伸びると信じていたので、笑いながら、わかりやすく体で見本を見せながら教えた。なるべく自分の体で見つけて欲しかったので、最低限のコツを教えただけで僕は自分の作業に戻った。30分ほど経って、チラッと横目で見た彼の姿勢が、正確になっていた。まさか、すぐに習得できるわけない。と思って彼の所まで行って作業を見ていると、驚くほど正確に習得していた。
この日教えた技術を、彼はことごとく、見様見真似でやってのけてしまった。少なくとも、僕が今まで見てきた、靴職人を目指す人間の中で、一番才能がある人だと思った。あの、大っ嫌いな週刊誌記者が。屈辱的な事実なはずなのに、僕は興奮していた。
この一日に起きた三つの化学反応を、僕は思い返している。まず、僕は彼に隙を見せないように、いつも以上に自分に規律を持って工房に入っていた。そして、僕と彼は、適度な距離感で、靴作りを上達するために協力していた。最後に、才能がある弟子に出会えて、ワクワクしている自分がいる。
信じがたいが、彼との出会いは必然だったのかもしれない。弟子入り初日の彼に、僕は新しい扉の前に立たされた。もう一度言う、僕は今、興奮している。
■文/花田優一(靴職人、タレント)