記者のセンスは「これまでの弟子のなかで随一」だという

神聖な工房内では“水と油”な2人もあくまで「師匠と弟子」の関係

 生まれた頃から今日に至るまで、週刊誌記者を味方だと思ったことはない。人気者の足にしがみつき、罪のない人間を犯罪者かのように騒ぎ立てる。庶民の嫉妬心を焚き付け、一人の人生を壊しても償うこともない。僕は、週刊誌記者を心の底から軽蔑してきた。自分の人生も、事あるごとに踏みにじられてきた。到底許せるものではないし、世界で一番嫌いな職業は、週刊誌記者だと言っても過言ではない。

 僕にとって、工房とは、聖域だ。嫌いな人間に立ち入られることは許さないし、友人であっても、神聖な場所を乱すような者とは、縁を切る。それほどまでに、工房に日々魂を擦り込んできた。「靴を作らない靴職人」と報道しているテレビを見ながら、靴を作った。家族が壊れていく日々も、工房にいた。悔しくてたまらない時は、道具を握って無心に釘を打ってきた。涙を流すのも、成功を噛み締めるのも、いつも工房だった。 

 弟子入り初日、工房に向かう車の中で考えていたのは、「彼は少しでも隙を見せれば面白おかしく記事にするだろうし、今でなくともいずれネタがなくなれば使うだろう」ということだった。それでも彼との約束は、“本気で靴職人の修行をする”だったので、細かいことは気にせず、この時間を大切にしようと、気持ちを切り替えた。

 工房に入り軽く会話を済ませると、早速彼に、「靴づくりの基礎から始めましょう」と言った。すると彼は、「弟子なので、掃除で1日終わるつもりで来たのですが、いいんですか」と返した。この会話で、彼のことを週刊誌記者だと思うのは、少なくとも工房内ではやめようと覚悟した。

修行初日に感じた「屈辱」と「興奮」

 まずは道具の説明、姿勢の使い方、集中力のコツなど、基礎中の基礎をある程度教えた後、“革スキ”という、靴職人に欠かせない技術を教えることにした。これは、革をつなぎ合わせる際に段差をなくすために使う技術で、通常であれば取得までに半年ほどかかる。案の定、「手も足も出ない」という感じだった。

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