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伊東正義 目の前の総理の椅子を蹴飛ばした「超頑固爺さん」の気概

伊東正義は今の政治家とは違った(時事通信フォト)

伊東正義は今の政治家とは違った(時事通信フォト)

 議員バッジにしがみつく姿が定番と化している政界において、伊東正義は目の前に差し出された総理の椅子を蹴飛ばし、最後まで筋を通し続けた希有な存在だった。

「超頑固爺さん。金にはまったく興味がない。資金集めはしないが、信用した身の回りの人間には気前よく身銭を切る男気があった。分厚い財布を持ち歩く政治家がほとんどのなか、伊東は小さな折り畳み財布。支払いの時に三つ折りにしたお札を出して、『全額にならないが、皆の分の足しにしてくれ』と言ってくれたのを覚えています」(長く伊東を取材した政治ジャーナリスト・泉宏氏)

 1980年、大平正芳首相が急逝すると、内閣総理大臣臨時代理に就任。誰もが認める次期総理候補だったが、伊東は「自分は大平の葬儀をきちんと行なうための臨時代理」と言って固辞した。

「消去法で鈴木善幸の名前が浮上し、鈴木内閣が誕生しました。伊東は外相になりましたが、日米同盟の解釈をめぐって政府方針と対立。鈴木の慰留にもかかわらず、潔く辞任した。その後、リクルート事件で竹下登首相が辞任すると、カネとは無縁の伊東が再び“ポスト竹下”として急浮上。竹下自ら『あんたしかいない』と口説いたが、伊東は頑として首を縦に振らなかった」(同前)

 後藤田正晴に請われて自民党政治改革本部長に就任するも、1993年の衆院選には出馬せずそのまま政界を引退。翌1994年、肺炎のため自宅で亡くなった(享年80)。

「引退の直接の理由は体調の悪化で、国民のために働けないのなら辞めるしかないと考えた。政治家は一代限りで後継者はいらないというのが伊東の信条でした。もし伊東が総理になっていれば、その後の自民党は大きく変わり、カネや権力闘争ではなく、政策や理念を重視する政治が日本に定着したはずです」(同前)

※週刊ポスト2021年5月28日号

総理になった竹下(中央)、なれなかった安倍(左)、なれるのにならなかった伊藤(右。写真は時事通信フォト)

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