2020年11月、就職氷河期世代を対象にした国家公務員中途採用試験が実施された(時事通信フォト)
このコロナ禍でも20代なら未経験でも心配することはない。彼ら、とくに20代はそもそもの世代人口が少ないわけで、コロナ禍でも好調なIT、ウェブ、通販事業を中心に正社員求人が溢れている。ただし後述するが40代以上、中高年の大半は蚊帳の外だ。
「おっしゃるとおり、正社員が一番なんですね。以前のバイトで楽しいこともあったけど、今回の派遣バイトで非正規は最悪だって改めて知りました。会社員でも夢は追えるし、それに近いような業種とか、(夢の内容に近い業界の)関連企業もチャレンジしてみます」
そう、正社員こそ日本の社会保障である。老人は「そんな国なんて嫌」と言うだろうが、事実である。特別な能力者か資産家でもない限り、ごく平凡な日本人に与えられた最大の社会保障は正社員(正規の公務員も含む)である。まともなZ世代の子どもたちと話すと、彼らはちゃんと知っている。親から教わっている。なぜなら、彼らの親世代も中高年。バブル崩壊や就職氷河期とその恩恵、悲哀を知っているからだ。結婚し、子を持てた彼らは、子どもどころか結婚すらできない非正規ひしめく同世代の中では”勝ち組”(表面上の話だが)だろう。夢は公務員=正規職員、夢は会社員=正社員は彼らにとって笑い話ではない。実際、多くの団塊ジュニアの非正規にとって、それは大人になってからも真面目な「夢」だった。
「サラリーマンなんて夢がない」「サラリーマンなんて惨め」なんて言説は老人のおとぎ話で、いまや安定したサラリーマンのほうが夢に近い可能性だってある。それをZ世代とその親は(まともな、というエクスキューズはつくが)知っている。今どき、ごく僅かな天才や成功者の話で子どもに夢を見せるのはむしろ貧困層の親かもしれない。なんだかアメリカのホワイト・トラッシュみたいだ。
それはともかく、若者は正社員に一時的にでも”避難”したほうがいい。「正社員だってどうなるかわからないよ」なんて冷笑は聞かなくていい。非正規でシフトも満足に入れず、下手をすれば国保も年金も全部自分持ちで詰むよりよっぽどいい。社保に入っていなければ傷病手当金も出ない(一部特例あり)。一生を非正規という”身分”で生きながらえても、40年間国民年金保険料を払っても年金受給額は月額約6万5000円(実際の大半はこれより少ない)、自己責任で一発狙う若者はともかく、それをしない若者がわざわざ選ぶ身分ではない。ますます長期化するコロナ禍と恐怖のオリンピック以後、日本の労働環境、社会保障は最悪になるだろう。とくに非正規は地獄となる。幸いにして少子化アドバンテージを持つ若者が、そんな非正規地獄につき合う必要はない。