2019年の合同企業説明会。コロナ前までは人手不足で学生優位の「売り手市場」が続いていた(イメージ、時事通信フォト)

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20代なら、いくらでも就職先があった

「失業した私が“難民を救けてください”って声かけするの、なんかおかしいですよね。それにコロナで緊急事態宣言中なのに声かけなんて、おかしいですよね。怒られることもありますが、そりゃそうです」

 「面白い」という意味合いで「おかしい(可笑しい)」を繰り返し自嘲するカメリエーレさん。当初はぶっきらぼうに「立ち話なら」ということだったが、同じ20代を扱った拙ルポ『リクエストが鳴らない20代のウーバー配達員「コロナは潮時を教えてくれた」』を紹介すると駅前の生け垣に座り、改めて話をしてくれるという。あの記事中の彼と同じ境遇のはずが、話してみれば悲壮感はなくあっけらかんとした様子ですぐに打ち解けた。長身、マスク越しながら丹精な顔立ち、高級店のウェイターとしてさぞ映えただろう。

「職場には満足していました。シフトの融通も利きましたし、月に20万くらいにはなりました。多い時は25万いったと思います。いろいろ引かれて(額面と)実際の手取りは違いますが、それでも仕事があって、収入があって、社保にも入れてたわけで、夢のためには申し分ありませんでした」

 カメリエーレさんには夢があるという。夢のために東京にいる。どうりでスラリとしたイケメン、それに国立大学の経済学部を出ているとのこと。圧倒的な新卒売り手市場だったコロナ以前、就職する気はなかったのか。引く手あまたのはずだ。ちょっともったいない。

「大学時代に夢のきっかけを掴むことができたんで、いけると思ってのめり込んじゃったんです。けっこういいとこいってたんですけど、プロには程遠い身です」

 夢の内容もまた、本旨でない上に主題とブレるため書かないが、ちょっと知られたグループのメンバーでもあったという。若くして認められれば嬉しいもの、若気の至りで走る者など珍しくもない。ただしプロになり、専業でメシを食って所帯まで持てるかといえば、どんな世界も限りなく門戸は狭い。親掛かりの学生がプロを自称するのとは話が違ってくる。

「あと、いくらでも就職先があったからってのもあります。若いからなんとかなるというか」

 なるほどそのとおり、コロナ以前の売り手市場は新卒なら引く手あまた、バイトだって選び放題だった。紆余曲折を経て就職するにしても20代、ましてや国立大学卒ならやり直しはいくらでも利いただろう。自分たちのアドバンテージをきっちり踏まえ、したたかに金の卵、少子化の恩恵を利用して夢を追った。そう、コロナ以前は。

「(そうは言っても)経験しないとわからないこともあります。国民年金は高いし、国保(以下、国民健康保険のこと)も怖いです。びっくりしました」

 カメリエーレさんの話で一番興味深かった点だ。非正規であっても条件を満たせば社会保険(健康保険と厚生年金)に加入することができる(できる、というだけで実際は義務通りに加入していない企業もある)。一般的には(個別の事情は除く)従業員数501人以上の事業所で勤務時間や日数が正社員の4分の3以上を対象としているが、満たさずとも週の所定労働時間が20時間以上、月額8万8,000円以上、勤務期間が1年以上見込まれていれば加入できる(学生は除く。また従業員数500人以下の場合、労使契約による)。

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