この “社保”に対する非正規労働者の不安、筆者もたびたび耳にしている。解雇やシフトの大幅な減による資格喪失、条件喪失となる事例がコロナ禍に発生している。さまざまな国の救済制度はあるが周知も効果も不十分、また企業側で猶予を図ることもできるが(グレーな部分だが、そもそも資格・条件は目安であり、シフト減だからと即資格喪失届を出す必要はない。原則は実際の勤務日数ではなく所定労働日数のため)、これ幸いと事業主負担を減らすため、あっさり切り捨てる企業(とくに中小零細)もある。企業は雇用を守れ、労働者は労働契約(雇用契約)のすべてを把握して自身を守れ、は正論だが個々の現実は残酷だ。
「国保は去年の分で計算されるんですよね、年金は免除にしてもらいましたけど」
国保も収入を考えればたいしたことはないし救済制度があることを伝えると少しは安堵したようだ。会社が半分肩代わりしてくれていた分を自分で払う身になるということは、実際に経験してみなければわからないだろう。念のため聞いてみたが、話の限り契約期間満了で告知された整理解雇だそうで、店側の対応も問題なさそうだ。
正社員が一番。非正規は最悪だって改めて知りました
「(退職後は)コロナだし失業手当で好きなことしてました。お金はないけど、時間はありましたから。だから(整理解雇は)気にしていません。むしろみんな(先輩や同僚)と別れるのが寂しかったですね」
高級店で世間体もプライドもあるのだろう、この手の中小飲食には珍しく(本当は当たり前なのだが、現実はそうではない)バイトでも雇用保険に加入していた。その点、カメリエーレさんも納得しての退職だったという。整理解雇の4要件は存在するが、高級店とはいえ会社規模としては中小零細。個人的な(政治信条的な、も含む)憤りでもなければ、バイトが弁護士を立てるとか組合で闘い続けるのは現実的ではないだろう。決して労働運動を否定しているわけではないが、長く勤めた中高年や所帯持ちならともかく、若いフリーターなら見切りをつけて次、というカメリエーレさんのような人が現実だ。都内の家賃5万円のワンルーム住まいでカツカツだが、とくに悲観はしていないという。
「はい。コロナ(禍)でも若者に限れば求人は多いですし、20代で大卒なら問題ないってハロワ(ハローワーク・公共職業安定所)でも言われました。貯金は少なくなったし夢も遠のきましたが就職活動するつもりです。一生非正規はイヤですからね」
話し込んでみれば受け答えもしっかりしているカメリエーレさん、ハロワではコロナ失業の給付について教えてもらったそうで、彼ならハロワでなくてもよい就職先が見つかることだろう。コミュ力も高い。むしろ会社員のほうが成功しそうな気がする。
「もちろんです。複数の求人サイトに登録してますが、未経験なのに何件もスカウトが来ています。大手企業もあって、少子化でよかったと思います」