握力が弱くなると全身の筋力も低下している
コロナの影響が表れたかもしれないという項目もあった。「腹筋」は、ずっと上昇傾向だったのに、5回目で下降ぎみになった。「歩行速度」は、1回目から比較的優秀で、その後も少しずつ歩行が速くなっていたが、5回目では若干の低下がみられた。「握力」も同様に、5回目で下降に転じた。
ぼくは、この「握力」の低下に注目した。握力は全身の筋肉の状態を表す一つの目安になるからだ。その証拠に、「腹筋」や「下半身の筋力」で、低下傾向がみられる。
福岡県久山町の住民を対象にした大規模疫学調査では、握力と寿命は相関関係があるというデータが出ている。また、カナダのマクマスター大学の14万人を対象にした調査によると、握力が5kg低下すると死亡リスクが16%上がるといわれている。
これを改善するには、全身の筋力をアップする運動をしながら、握力を意識すること。例えば、壁に手をつく「壁立て伏せ」をするときに、指を立てるようにするといい。佐賀の塾生たちにはそうすすめた。
健康づくりの第一歩は筋力・運動機能の把握から
健康づくりのための行動変容で大切なことは、現状を把握することだ。自分の健康状態をきちんと把握する、つまり“棚卸し”である。
棚卸しは、定期的に不良在庫がないかを確認しながら、利益を生み出せるように改善していくのが目的。健康をつくっていく場合も、年に一度の健診という“棚卸し”が必要だ。ただ、健診だけでは筋力や運動能力はわからないので、毎日の生活のなかで、次のこともチェックしてもらいたい。
【1】歩行速度
歩行のスピードと健康寿命は関係している。筋力やバランスが低下すると、スピードも遅くなる。例えば、自宅から駅までのタイムを測定し、そのタイムより速くなったか遅くなったかを確認するとよい。
【2】歩幅
歩幅が大きいと、歩行速度も速くなる。歩幅は身長によっても異なるが、年齢とともに小さくなる傾向がある。ウォーキングをするときにはただ歩くというのではなく、あと5cm歩幅を延ばそう。
【3】下半身の筋力
椅子から立ち上がるときに、これまで以上に腕の力が必要になったという人は下半身の筋力が低下している。
【4】握力
瓶詰やペットボトルのふたが開けづらいという人は要注意。握力が弱くなると、全身の筋力も低下している可能性がある。
【5】滑舌
口腔フレイルになると、舌が回らず、早口言葉が苦手になる。パ・タ・カ・ラ・パ・タ・カ・ラ……と、できるだけ早く、はっきりと発音することで舌と口腔機能を鍛えられる。
【6】認知機能
中年でも、簡単な計算ができなくなったり、仕事の段取りが悪くなったりする。また、気分が落ち込みやすくなった、イライラして怒りっぽくなった、無感動や無反応になったという人は注意しよう。