国内

目と鼻のない18才の娘【後編】第三者の助けを借りて親子が見つけた光

倉本美香さん千璃ちゃん

生まれつき眼球と鼻梁がなく、心臓にも穴が空いていた千璃さん(右)。写真は14才の頃。

 もし、「見えない」「話せない」重度障害の娘が生まれたら──アメリカ在住の倉本美香さん(51才)の長女・千璃(せり)さん(18才)は「無眼球症」と呼ばれる障害を抱えており、生まれたときから眼球がなかった。

 千璃さんが初めて手術を受けたのは生後10か月のこと。埋め込んだ器具は幾度となく目の中から飛び出し、たった2週間で再手術となることもあり、以降、千璃さんは義眼治療だけで約30回もの手術を受けた。

 希望を込めて行っていた義眼手術だが、後々、思いがけない形で美香さんを苦しめる原因となる。日本で1冊目の著書が出版されると、「視覚のない子供に義眼を無理に入れる治療を受けさせるのは親のエゴ」と、大バッシングを受けた。「目も鼻もない18才の娘」は何を教えてくれたこととは──。

第三者に助けを求めたことで千璃の可能性が広がった

 異国での手術と仕事に追われながら、美香さんは千璃さんを含む4人の子供を育てた。

「いちばん下の子が生まれてすぐは、まだ誰もひとりで歩けなかったはずなのですが、4人の子を連れてどのように外出していたのかまったく思い出せないんです。そんなときでも、メモ程度ではありますが、ずっと千璃との日々は書き残していました。おかげで、こうして振り返ることができます」

 現在、倉本家には、高校1年生の長男、中学3年生の次男、中学2年生の次女の3人が美香さん夫婦と一緒に暮らしている。

 千璃さんは、10才から寮がある学校へ通い始めた。「家族が面倒を見ず、障害者を施設へ送り込んだ」と思われはしないか、本当にそうしていいのだろうかと、決断してなお迷いもあったが、歩行、食事、排せつといった基本的なことすべてに介助が必要な千璃さんには、親がいなくなっても生きていける力を身につける必要があった。

 ニューヨーク州の北部にあるスペシャルスクールは、広大な敷地の中に、学校と寮、病院、成人向けの職業訓練センター、農園や酪農場などが点在しており、肢体や発達に障害を持った人たちが一緒に過ごしている。生徒の数は約270人で、そのうち、自宅が遠方で通学が困難な生徒たち約150人が寮生活を送っている。

 千璃さんの通う教室の生徒は6人。4人の教師に手厚く見守られている。授業は午前9時から午後2時半までで、生きていくために欠かせない「食べる」という行為を自分ひとりでできるようにすることを目標にしているのも、この学校の特徴だ。

「それまでは、異国の地で親にすら心配をかけられないと、自分たち夫婦だけで抱え込んでいました。空に向かって『助けて』と言ったことは何度もあるけれど、いざ人に会うと何も言えない。不器用で、甘えることができなかったんです。私は“自分にはできない”とも言えなかった」

関連記事

トピックス

遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト