aa

舞台挨拶ではコロナ禍での映画公開に涙を浮かべた

 映画界において、絶大な支持を得てきた尾野真千子。今年は、一人の女性の悲哀と時の移ろいを演じてみせた『ヤクザと家族 The Family』が記憶に新しいし、本作とはまた異なる母親像を演じている『明日の食卓』も封切られたばかりだ。そんな尾野が『茜色に焼かれる』で見せるいくつもの表情は印象深い。母親として息子を慈しむ表情、愛した夫を懐かしむ表情、職場で不当な扱いを受けた時の表情、精神的に限界ながらも笑ってみせる表情……。田中良子という人間が生きる上で見せるいくつもの表情を、尾野は微細な変化で示し、心の機微を観客に訴えかけている。

 良子がたびたび口にする「まあ頑張りましょう」という言葉も印象的だ。その言葉とともに見せる尾野の表情には、何度も胸を打たれる。観客の多くがコロナ禍による理不尽を同様に経験しているが、彼女の場合は抱えているものがあまりにも多く、かつ重い。日々の苦しみを前にしながらも、無理にでも笑って日々をやり過ごそうとする表情からは、大変だけど、「それでも前を見て生きていこう」という強い“意志”を感じずにはいられない。厳しい状況の中でもどうにかして前を向いていたい、そんな私たちの気持ちを彼女は代弁してくれているように感じた。そして、そんな良子が本当に傷つき、怒りを表出させるシーンは圧巻の一言だ。

 良子の爆発もまた、我慢して日々をやり過ごしている私たちの心情を代弁してくれているものだと思う。口コミには、「田中良子が怒っている。この世の中に、私たちの代わりに怒ってくれている。代弁者だなと思った」などの声が見受けられる。同感だ。このご時世、明日のことさえ見通せず、叫びたくても叫ぶことができない方も多いことだろう。尾野真千子という一人の俳優が、田中良子という映画上の人物を通して、“大丈夫じゃない人たち”の叫びを代弁してくれているのだ。誰もが“自分事”として応援せずにはいられない、現代をたくましく生きる一人の人間像を、尾野は体現しているのである。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン