「年齢を重ねると、動体視力が落ちてくる。しかも、代打になると、中継ぎや抑えの150キロ超えのボールを持つ投手とも対戦し、1打席で結果を残さないといけない。4打席勝負できるスタメン起用は亀井にとって、復調のきっかけとなるはずです。翌日も『6番・ライト』で先発出場し、4打数1安打でした。2日連続で4打席目にヒットが出ていることは良い傾向です。ベテランになると、4打席目以降は極端に打てなくなる。あの王貞治さんでさえ、引退した40歳の1980年は4打席目以降の打率が1割6分9厘でしたから」
「代打・長嶋一茂」「代打・岡崎郁」「代打・吉村禎章」
原監督の起用法がベテランを復調させつつある。これには、現役時代の自身の苦い経験があったからこその采配かもしれない。
「晩年の原辰徳は代打を送られたり、落合博満の守備固めで出場したり、相手の先発が左か右かわからない時にはまず偵察要員入れられたりしていましたからね。およそ、長年巨人の4番を張ってきた打者に対する起用法ではなかった」
1993年、長嶋茂雄監督が2度目の就任を果たした時、原は4番を打っていた。しかし、この年不調に陥り、打率2割2分9厘、11本塁打、44打点と入団以来最低の成績に終わってしまう。オフにはFAで中日から落合博満が移籍。4番の座を奪われた上に、オープン戦で左足アキレス腱の部分断裂をしてしまい、開幕には間に合わなかった。6月14日の復帰戦で、阪神の藪恵市からホームランを放ち、その後も好調を保つも、レギュラーを確約されたわけではなかった。
9月8日の横浜戦では1点リードの7回裏に『代打・長嶋一茂』を送られた。長嶋監督は「1点勝負だから守備を重視したんです」と次の回からサードに一茂を守らせるための起用だとその意図を明かしたが、不可解な代打だった。一茂は初球を打ってサードゴロに倒れている。9月14日のヤクルト戦でも、2点ビハインドの7回1死満塁のチャンスで、原に代わって『代打・岡崎郁』がコールされている。しかし、岡崎は凡退し、結局試合は0対2のまま敗れた。
「この年の原は決して不調ではありませんでした。数字だけ見ても、67試合で打率2割9分、14本塁打、36打点。広島、中日と優勝争いを繰り広げていた終盤も貴重な一打で貢献していました。9月18日の阪神戦では1回に猪俣隆から決勝3ラン、10月5日のヤクルト戦では石井一久から先制3ランと要所で活躍しています。それでも、長嶋監督から全幅の信頼を置かれていなかったのかもしれません」