八九年には『月影兵庫あばれ旅』(テレビ東京)、『腕におぼえあり』(NHK)で村上は侍役で主演しているが、いずれも中剃りのない地毛での出演となった。また、セリフ回しも現代寄りのものになっている。
「そこは工藤さんの影響がありますね。時代劇時代劇したものを嫌う人でしたから。
たとえば、こちらとしては時代劇だから侍らしく言葉を一つ一つ立てようとすると、『時代劇だからといって、特に武張った喋り方をする必要はない』と言うんです。
考えてみたら、『侍らしい』とは言っても僕は侍に会ったわけじゃない。侍の喋り方を聞いたこともない。昔の東映映画の見よう見まねでやってもしょうがない。だったら自分なりに喋った方がいい、と」
時代劇の殺陣は重心が重要になるため、長身の役者には不向きといわれる。だが村上は問題なくこなしてきた。
「工藤さんは殺陣師でもあるんですが、『お前、立ち回り上手いな』と言われました。それは子供の頃に、チャンバラごっこをやっていたからじゃないかと思いますね。
大人になって急にやろうとしても難しい。子供の頃に遊び心でやっていたことが、反映されるのではないでしょうか。
立ち回りの時に、雰囲気が出るか出ないかの差はそこにあると思います」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年6月18・25日号