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池袋暴走死傷事故・飯塚被告の“記憶違い”の写真  

6月21日、被告人質問を終え弁護団らと会見に臨む松永さん(写真中央)と真菜さんの父・上原義教さん(写真左から2人目)。

6月21日、被告人質問を終え弁護団らと会見に臨む松永さん(写真中央)と真菜さんの父・上原義教さん(写真左から2人目)。

 松永さんは、裁判で被告がどんな答えを返してきても取り乱さずに聞くべきことを聞けるよう、弁護団と何度もシミュレーションし練習したという。しかし被告の回答は、悲しくも予想通り、まったく納得のいくものではなかった。

「この2年どう過ごしてきたかという質問にも、自分の持病やリハビリが辛かったことなど話し始めてしまう。本当に自分中心にしかものごとを考えられない人なんだなと感じました。よく言えたと思います。その言葉で遺族が辛い思いをすることも想像ができないんです」。怒りに震えながらも、松永さんは取り乱すことなく、冷静だ。

 これまでの裁判で、事故車の電気系統に問題はなかったこと、被告がブレーキペダルを踏んだ形跡がないこともわかっている。証拠として提出されたドライブレコーターの内容と、被告の証言に異なる部分が複数ある。その上で、被告は一貫して「車の故障だ」として無罪を主張しているのだ。

「私は今まで、法律上の加害者の権利も、彼の主張も最大限尊重してきました。だからなるべく暴言を吐かないようにしてきたし、汚い言葉も使わないようにしてきました。でもこれほどあちらが私たちの心を踏みにじり続けるなら、話は別です。あの人は2年間何も変わらなかった。きっともう変わらないでしょう。前の晩、裁判が終わってもきっと虚しくなるだろうと思っていましたが、案の定虚しかった。この気持ちは拭えません。

 証拠と向きあって、真摯に罪を認めてくれていたら、今の心情は違っていたと思います。本当は憤りを感じたくないし、軽蔑もしたくない。真菜と莉子が愛してくれていた当時の僕のように、穏やかでいたい。でもあの人の言動がそれを許してくれないんです」(松永さん)

 裁判にはいつも、真菜さんの結婚指輪と婚約指輪をペンダントにして身につけ、心を鎮めるように手を当てて臨んでいる。松永さん一家は2020年には、沖縄に家族で移住する予定だったという。「中古で小さな家でもいいから海の近くに家族3人で住んで・・・ほんとうだったら今ごろはそんな生活をしていたはずなのに」(松永さん)

 6月21日の裁判終了後、飯塚被告が運転していたハイブリッド車「プリウス」を生産するトヨタ自動車が初めてこの事件について異例ともいえるコメントを出し、「本件の被告人が、裁判の中で、本件の車両に技術的な欠陥があると主張されていますが、当局要請に基づく調査協力の結果、車両に異常や技術的な問題は認められませんでした」と発表した。

「当事者として、罪を償っていただきたい。でもほんとうに大事なのは、こういう事故が二度と起きないことです。事故が起きる可能性は誰にでもあるんです。交通事故そのものも悲惨ですし、加害者を目の前にして行う裁判も苦しく悲しいものです。それを全部含めてが事故。こんな思いをもう誰にもしてほしくないけれど、誰にも起こってしまうかもしれない。苦しみを知る自分だから、交通事故をなくすための活動をしていきます」(松永さん)

事故から2年がたった今年4月19日、現場近くに設置された慰霊碑前で追悼する松永さん。(c)時事

事故から2年がたった今年4月19日、現場近くに設置された慰霊碑前で追悼する松永さん。(c)時事

 裁判当日、密を防ぐため22枚だけの配布だった傍聴席の抽選には長蛇の列ができていた。普段は人の行き来もまばらな裁判所の入り口から交差点にまで、強い陽差しの下、人の波が続く。学生風の若者から杖をついた初老の男女、スーツ姿の会社員、主婦らしきかたまで、老若男女さまざまな人たちが抽選券代わりのリストバンドを受け取っていく光景は、世間の注目度の高さをうかがわせる。

 この事故をきっかけに、免許を自主返納する人が急増したり(2019年は60万1022人と前年比17万9832人増)、安全運転への意識、行政の対策への関心など、あらゆる意味で問題を投げかけた。被告には悲痛な思いは届かないかもしれないが、真菜さん、莉子ちゃんの命は確実に他の命へとつながっている。被告人質問を終えて家に帰り、松永さんは真菜さんと莉子ちゃんにこう報告した。

「つらいし虚しいけれど、心配しないでね。ふたりはどうか安らかに。裁判も、交通事故撲滅のための活動も、やれることは全てやるよ」

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