「“お帰りぃ”が聞きたくて、何度も来てしまうわ。家じゃぁ妻が『あらいたの?』やからね。店主夫婦が話し相手もしてくれはるけど、黙って静かに飲みたいときは放っておいてくれる。我が家より気ぃ使わんと飲める。
ここの飛竜頭(ひろうす)が好きでね、東京ではがんもどき言うんかな。絶妙に味が染みとって旨い」(50代、技術系)という特製おでんも人気だ。
「おでんは、おふくろから受け継いだ味ですわ。たいそうなレシピはないねんけど、かつおと昆布の白だしやね」と語る店主は、客から注文されたネギ豚巻きを、風味豊かなだし汁にさっと浸ける。熱々を食べられるようにとの心配りがうれしい。
「すぐ近くで働いているので、仕事が終わってから保育園に息子をお迎えに行くまでの30分の息抜き。この雰囲気がめっちゃ気に入っちゃって、今日が3度目」(20代、サービス業)
「子供を通じて仲良うなった友達に連れてきてもらって、すっかりなじみ。さっと飲めて、刺身やら煮炊きもんやらつまみがどれも最高やしね」(50代、パート)と、女性の常連客も多い。
老若男女がくつろぐこの店には、洒落たジャズのBGMが流れている。
「リタイアしてからは、散歩がてら歩いて1時間かけてここに来とるんですよ。店主が好きな演歌かけとったら、立ち飲みしよる客みんなで大合唱になってもうて。ジャズやったらみんな知らんから歌えないやろって(笑い)。いまはジャズでスウィングさ」(同前)と、運動靴でリズムを刻む常連が飲んでいるのは、焼酎ハイボール。
「“たどりついたらこの辛口”って謳い文句、まさにその通りなんだ。ここで初めて出合った最高の辛口、スッキリして1杯目にふさわしい酒だよね」(同前)
(2020年11月25日取材)