6月13日のG7首脳会議(写真/EPA=時事)
その間に行なわれたのが、6月13日のG7(主要7か国)首脳会議だ。
日本政府は共同宣言に、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する」と盛り込むことに成功する。
今年4月の日米首脳会談の共同声明では、「開催努力の支持」にとどまっていたが、サミットで主要国首脳から“開催の承認”を取り付けたのだ。元レバノン大使の外交評論家・天木直人氏が指摘する。
「共同宣言の内容は基本的にシェルパと呼ばれる各国の外交官が1年近く協議を重ねて詰める。日米首脳会談やサミットの交渉スケジュールから逆算すると、菅首相は少なくとも訪米の前、今年3月頃には日米首脳共同声明の内容は物足りないものになると判断し、サミットでより踏み込んだ内容にするように事務方に指示していたはずです。その頃には、はっきり五輪開催の結論を決めていたことがわかる」
腰砕けになった尾身氏らはサミット後の6月18日に提言を発表したものの、サミットで開催が国際公約になったことで「(中止提言は)意味がなくなった」と削除したことを明らかにした。
国民感情は見て見ぬフリ
6月21日の5者協議では、専門家の提言に“次善の策”として盛り込まれた「無観客」「政府のコロナ基準より厳しい人数制限」「観客の都道府県をまたぐ移動の原則禁止」という3条件はことごとく無視され、「上限1万人の有観客開催」が決まった。
菅首相は「緊急事態宣言が必要になれば、無観客も辞さない」(6月21日の会見)と述べたが、緊急事態宣言を発出するのは当の菅首相である。つまり“私が宣言しないかぎり有観客で開催”“無観客など例外中の例外”という意味なのだ。組織委関係者が語る。
「有観客は当然としたうえで“できるだけ入れたい”というのが菅首相やIOCの考え。政府のイベント基準の上限1万人に、大会関係者や小中学生の観客を別枠にするというあの手この手で観客数を上乗せし、開会式は大会関係者やスポンサー枠を含めて約2万人まで入れる方向で調整している。専門家の提言に反する話だ」
コラムニストの小田嶋隆氏は「尾身氏は政府の論点ずらしに一役買った」とみる。
「本来なら議論は優先度の高い論点から判断を決めていくものです。今回は東京五輪を開催するか否かを最初に決めるべきでした。
ところが、尾身氏は『普通はない』と言いながら、同時に『やるなら開催の規模をできるだけ小さくして』とも付け加えた。それが失言だったのか確信犯だったのかは分かりませんが、いずれにしても『開催するのであれば』という前提で仮定の議論が進み、みるみる論点がずらされていった」