「傷の舐め合いはいらない」
「友人がいないという感覚は、なんとなくわかります」。そう語るのはジャーナリストの鳥越俊太郎氏(81)だ。年齢を重ねることで、友人関係の変化は実感していると言う。
「僕も75歳ぐらいまで現役で仕事をしていましたし、第一線から退いたからといって新聞記者やメディア関係者など付き合いがなくなるわけでもありませんでした。ただ、80歳に近くなると、さすがにそうしたことも減っていきます。今でもぽつぽつと会食する機会はありますが、社会の日常活動からは一歩外れてしまったとは感じます」
現役時代には想像もしなかった世界に立たされていると鳥越氏は語る。
「友人と付き合うにも、どこかに出かけるには体力が必要だし、ある程度お金に余裕があるほうが動きやすい。でも体力もお金も減ってくれば外に出るのも友人と会うのさえもおっくうになってしまいますよ」
芸能界から財界まで幅広く交流のあるファッションデザイナーのドン小西氏(70)は、終活の一環として、人間関係をダウンサイジングした。アドレス帳に登録された5万人を280人まで減らしたと言う。
「仕事も人間関係も、今は要らないものは捨てて質を重視しています。LINEの連絡先も200人くらい消しましたが、面白いことに、社交辞令で適当に返事をするために使っていたスタンプを使わなくなりましたね」
名刺交換をして人脈を築くことが自分の成長につながったのは若い頃の話で、60代、70代となると違う心境になると語る。
「半世紀くらい社会人人生を送ってきて、いざリタイヤすると『この50年は何だったんだ』って人生のほとんどが空洞化したような気分にさせられるんだ。だから急に家族愛に走って孫の面倒をみようとして迷惑がられる人もいる。
友人関係をなんとか維持しようとして無理して会って、傷の舐め合いをする人も多いよ。そんな場での会話といえば、月並みな世間話に、ありふれた時事ネタ、政府やテレビに出ている人の批判で終わる。つまらないし、虚しいだけ。そんなどうでもいい友人はいらないと僕は思っている」
※週刊ポスト2021年7月9日号