奥行きの深い面白さに、老若男女が夢中になった。
「子供にすれば、大スターのヒデキを、太ったおじさんが投げ飛ばすから面白くてしかたがない。その横で、大人はドラマに漂う“陰”に引き込まれる。一見、ワンマンな貫太郎ですが、幼かった娘の足にけがをさせた後悔を抱えて生きている。きんばあちゃんは、奉公人だった過去があり、夫に先立たれて寂しい思いもしている。こうした登場人物が抱える苦しみは作中で解決することなく次週に先送りされる。
私たちの人生だって同じで、悩みや苦しみを抱えながらご飯を食べ、生活していかなければならない。大人になるほど違った味わい方ができることも大きな魅力でした」(ペリーさん)
脚本は『時間ですよ』(TBS系)、『あ・うん』(NHK)など数々の名作を生み出した故・向田邦子さんだ。
「向田さんの脚本には“風情”があった。たとえばおかみさんと2人で洗濯物を取り込むシーンでは、台本のト書きに『2人でシーツの端を引っ張ってピッと伸ばしながらたたむ』と細かく描かれているんです。これだけで登場人物の暮らしぶりや性格がはっきりわかる。そうした丁寧さも、味わい深いドラマになった大きな理由だと思います」(浅田)
珠玉の脚本を映像に昇華させたのは、久世さんの演出だ。向田さんの妹・和子さんが振り返る。
「世の中には男性と女性しかいませんが、そういうことを超えて“相性”ってありますでしょ。久世さんと姉はそういう相性がよかったんだと思います。
姉が亡くなった後、久世さんにお会いしたときにおっしゃった『お姉さんの脚本は本当に下手だった。でも、誰にも書けないようなドキッとする素晴らしいせりふを生み出すんだ』という言葉が忘れられません。姉も、久世さんこそが自分の書くつたない脚本を最大限に引き出してくれる人だと思っていたのだと思います。2人に共通していたのは、“自分たちが面白いと思うことをやりたい”という強い意志。そういった意味で、2人は“同志”だったのだと思います」(和子さん)
※女性セブン2021年7月22日号