それでいて、食事中に両親が「もっと食べろ」「好き嫌いをするな」とうるさく注意することはなかった。大谷本人だけでなく、両親にも幾度となく取材を重ねてきたスポーツライターの佐々木亨さんが指摘する。
「大谷家はおおらかなお母さんを中心に温かい家庭でした。お母さんが大切にしたのは、とにかく楽しい雰囲気をつくって、みんなでワイワイと食べること。休みの日にはホットプレートを使ったご飯にして、家族で料理をつつき合うのが定番だったそうです」
身長193cm、体重95kgという肉体の基礎は、一家だんらんから生まれたというわけだ。そんな家族の憩いの場は、2階建ての自宅の1階にあるリビングだった。
「大谷家は玄関からリビングを通らないと自分の部屋に行けない造りで、子供たちは皆リビングでご飯を食べて勉強もし、ソファで寝転んでいたそうです。大谷選手も2階にある兄と共同の部屋はほとんど使わず、自宅にいるときはずっとリビングにいて、ソファでそのまま眠っても起こされなかったこともあったそうです。
大谷選手は『実家のリビングは居心地がよかった』と話していて、ぼくも実際にお邪魔したときに、ご両親の醸し出す空気感がとても温かかったことをよく覚えています」(佐々木享さん)
こうした大谷家のルールは「安心感」と「主体性」を育むのに最適であると、前出の加藤さんは分析する。
「子供の成長で重要なのは、自分が無条件で受け入れられていると実感できる『心理的安全性』を手に入れること。大谷家のリビングでの光景はこれにあたります。加えてソファで寝落ちしても起こさないことにも教育的な意味がある。ソファで寝ると充分に眠れず、それによって翌日の学校でつらくなることも、子供が身をもって体験することで自らの行動を改めるきっかけになるのです。
最近の親は、なんでも先にお膳立てをしがちですが、主体性を育むには、子供自身が体験して気づくことが大切です」