芸能

田中邦衛さんの脇役魂「つまんない役に光をあててヴィヴィッドに」

田中邦衛さんの印象的な言葉を振り返る

田中邦衛さんの印象的な言葉を振り返る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、2021年3月に亡くなった俳優・田中邦衛さんの過去インタビューから、脇役について語った言葉を紹介する。

 * * *
 田中邦衛が亡くなった。

 役ではなく自分自身として人前に出て話すことを苦手としてきた俳優だったので、残念ながら彼が残した「役者としての言葉」はそのキャリアの長さや演じてきた役の幅の広さに比べて少ない。

 ただ、ありがたいことに「ムービー・マガジン 第十三号」(一九七七年、ムービー・マガジン社刊)にて高平哲郎がロングインタビューをしており、独特のとつとつとした語り口を見事に文字として再現しつつ、田中邦衛の役者としてのスタンスについて、かなり詳しくうかがい知ることができる。そこで今回はその中から、いくつか印象的な言葉を紹介していきたい。

 なぜ俳優になったのか。これは本連載で筆者も俳優たちに必ず最初に聞いているのだが、高平哲郎も田中邦衛にその質問をぶつけている。が、高平は何度も聞いているにもかかわらず「その質問に明確な答えをひとつも出してくれていない」と振り返るような状況だった。

 一方で、役作りの話になると「俺、そう聞かれると困っちゃうんですね」と前置きしながらも確たる言葉で語っている。

「役に入っていく場合、抵抗してやってくほうがいいですね。思い悩んで……。そういうほうが、集中を必要とするでしょ。特に細かくデータを調べたり。“読み”が勝負って感じしますね。

 やっぱり優秀な人は、役になりきれるんでしょうね。こっちは集中してないから、なりきるっていったって、どっかで醒めた目があったりしてね。同じ殺人犯の役でも、その人物の深みにどうやって入っていくかというのが個人的な作業ですからね。人物だって文学書を抜けだしたみたいな人で深みのない人だっている。もっと役もらって入っていくとき震えるくらい感動してやっていきたいね」

 どちらかというと田中自身も「なりきれる」タイプの俳優だと思っていただけに、「醒めた目」を持って細かく調べたりしながら役に入っていく──というのは意外だった。さて、この時期の田中邦衛が演じる役柄は専ら脇役。そこも、自身を醒めて見つめる言葉で語っている。

「ぼく自身に限れば、やっぱり脇役って感じしますね。主役というのはパワーというか持続力というか、人物の大きさって気がします。健さんなんか、“大きさ”あるもんね……。主役を喰うってことより、まず役の深みを、まず考えればいいし、二、三回深くやる……。よくわかんないけど、ただムキ、不ムキから言うと、やっぱり脇だという……」

関連キーワード

関連記事

トピックス

出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
【独自】《水原一平、約26億円の賠償金支払いが確定へ》「大谷翔平への支払いが終わるまで、我々はあらゆる手段をとる」連邦検事局の広報官が断言
NEWSポストセブン
ACジャパンのCMに出演するタレントたちに注目度が高まっている
《フジテレビ騒動の余波》ゆうちゃみはもはや“CM女王”、近藤真彦のチャーミングさが高評価…ACジャパンのCMタレントたちの好感度が爆上がり中
女性セブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
《お嬢さんの作品をご覧ください》戦慄のビデオ撮影で交わされたメッセージ、田村浩子被告が恐れた娘・瑠奈被告の“LINEチェック”「送った内容が間違いないかと…」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
中居の恋人のMさん(2025年1月)
《ダンサー恋人が同棲状態で支える日々》中居正広、引退後の暮らし 明かしていた地元への思い、湘南エリアのマンションを購入か 
女性セブン
大木滉斗容疑者(共同通信)
《バラバラ遺棄後に50万円引き出し》「大阪のトップ高校代表で研究成果を発表」“秀才だった”大木滉斗(28)容疑者が陥った“借金地獄”疑惑「債権回収会社が何度も…」
NEWSポストセブン
プロハンドボールリーグ・リーグH(エイチ)で「アースフレンズBM東京」の選手兼監督を務める宮崎大輔(時事通信フォト)
《交際女性とのトラブル騒動から5年》ハンドボール元日本の宮崎大輔が「極秘再婚の意外なお相手」試合会場に同伴でチームをサポートする献身姿
NEWSポストセブン
2月5日、小島瑠璃子(31)が自身のインスタグラムを更新し、夫の死を伝えた(時事通信フォト)
小島瑠璃子(31)夫の訃報前に“母子2人きり帰省”の目撃談「ここ最近は赤ちゃんを連れて一人で…」「以前は夫婦揃って頻繁に帰省していた」
NEWSポストセブン
ファンから心配の声が相次ぐジャスティン・ビーバー(Xより)
《ジャスティン・ビーバー(30)衝撃の激変》「まるで40代」「彼からのSOSでは」“地獄の性的パーティー”で逮捕の大物プロデューサーが引き金か
NEWSポストセブン
都内で映画の撮影に臨んでいた女優の天海祐希
天海祐希主演『緊急取調室』が10月クールに連ドラで復活 猿之助事件で公開延期になった映画版『THE FINAL』も再始動、水面下で再製作が進行
女性セブン
事故発生から1週間が経過した現在も救出活動が続いている(写真/共同通信社)
【八潮・道路陥没事故】74才トラック運転手の素顔は“孫家族と暮らす寡黙な仕事人”「2人のひ孫の手を引いてしょっちゅう散歩していました」幸せな大家族の無念
女性セブン
亀梨和也
亀梨和也がKAT-TUNを脱退へ 中丸と上田でグループ継続するか話し合い中、田中みな実との電撃婚の可能性も 
女性セブン
水原問題について語った井川氏
ギャンブルで106億円“溶かした”大王製紙前会長・井川意高が分析する水原一平被告(40)が囚われた“ひりひり感”「手をつけちゃいけないカネで賭けてからがスタート」【量刑言い渡し前の提言】
NEWSポストセブン