ここでも田中は、自分自身を客観的に捉え、引いた視点から語っていることに気づかされる。そして、こう続けている。
「つまんない役に光をあてて、ヴィヴィッドにできたらなって思いますね。台本屋(ほんや)も監督も予想できないような役ができたらな──と、結局、すぐれた脇役ってそうするんじゃないですか」
そんな田中は後年テレビドラマ『北の国から』の主役を長きにわたり演じることになる。彼はどんな想いで臨んでいたのだろう。聞いてみたかった──。
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号