野球側からの見方になるが、同じような決断を侍ジャパンの稲葉篤紀監督ができるだろうか? と、ふと頭をよぎった。おそらく、それは難しいだろう。それは監督としての能力の違いなどではなく、代表チームが置かれた立場や環境の違いからである。
宇津木監督の采配には、ソフトボール業界の未来を背負っているような覚悟……そんな凄みがにじみ出ているようだ。
2008年北京五輪を最後にソフトボールは、正式種目から除外された。そして今回の東京大会で野球と一つになる形で、追加種目として採用された。次回パリ大会では再び、正式種目から外されることが決定している。ソフトボール関係者が狙うのは、2028年ロサンゼルス大会での再復帰だ。
五輪種目から外されることで、最も懸念されるのが、人気・認知度の低下→人材流出→競技人口低下…という負のスパイラルに陥ることだ。たとえば、女子プロゴルファーの渋野日向子はソフトボール経験者として知られるが、彼女のようにソフトボールから他競技に転向して成功を収めているケースはかなり多い。
もちろん、渋野がソフトボールを続けていても日本代表レベルの選手になれたかどうかは定かではないが、マクロな視点から、渋野のような身体能力に優れたソフトボール選手が、ゴルフをはじめとした他競技に流れていることは事実だ。
日本代表チームと宇津木監督にとって、今回の東京五輪での戦いは、単に金メダルを目指す戦いではなく、日本におけるソフトボールの未来を背負った闘いでもあったのだ。
優勝決定後の記者会見で、宇津木監督は次のようにソフトボール競技の未来についてコメントしている。
「(五輪のような)大きな大会はこれで最後。でも指導者としては、いつか復活できるように若い選手を育てていきたい。その時にまた金メダルが取れるような選手を作っていきたいと思っています」
代表チームの戦いぶり、宇津木監督の覚悟が、ソフトボールの明るい未来につながることを望む。
■取材・文/田中周治(スポーツライター)
■写真/代表撮影JMPA+藤岡雅樹