中学受験経験者の父親が陥りやすい「悪循環」
もっとも最近は自分自身も中学受験経験者という父親が多くなっている。数十年以上も前に中学受験しているくらいだから恵まれた環境で育ち、成績もよかった人たちだ。といって今ほど長期間、長時間の勉強は必要ではなかったため、父親の実母がつい口を滑らせてしまう。
「お父さんは塾に週3日くらいしか行かなかったけど〇〇中(御三家)に一発で受かったわよ」
いまや週5日、日曜も特訓講座に通っている子ども、母親にすれば当然面白くない。父親も当時とはまるで状況が違うことを理解していない。「自分の子どもなんだからできないのは努力が足りない」としか思わない。
受験校も自分の卒業校レベルを思い描く。視野に入っているのも会社の同僚たちと世界が狭いから、世の中にはものすごく幅のある学校が存在することを知らないし、関心が向かない。子どもは親とは違うことを認めずに一直線で子どもに当たると子どもはつぶれてしまう。
母親は、子どもの公園デビューの日から自分の子どもと他人の子とを常に同じ視野に入れながら子育てしてきている。そうした中で、よその子のすごさを感じたりして、自分の子どものスケール観、現実みたいなものも何となく感じている。
だが、父親はふだん他人の子と接する機会がないから、わが子しか見ていない。自分同様優秀なはずだと思い込んでいる。また自分自身が仕事ができる人間と思っているから、受験においても仕切ってしまう。
その結果、子どもの主体性、積極性が育たないことになる。ここが育っていない子どもは自発的に動かないので、父親はさらにイラつき、焦るという悪循環に陥るのである。
「自分の子どもだから優秀なはず」と思い込む父親たち
父親が決めた学校はすべて不合格
最後にとある塾の先生から聞いたケースを紹介してこの稿を終わりにしたい。
「お父さんが受験校まですべて決めていました。ところが、お父さんが決めたところは2月1日、2日、3日とすべて落ちてしまいました。
お父さんは激怒し、もう受験させるつもりはないと言い出しました。お母さんはこのままでは子どもの人生にとって良くないと、3日の夜に塾に相談に見えました。ここまで来たら、お子さんの意思が重要です。お子さんに判断させたらどうでしょうとアドバイスしました」
翌日、子どもは「もう1校だけ受けさせてください。そこもダメだったら公立に行きます」と父親に頭を下げて頼んだ。そして自分で選んだ学校を5日に受験。結果は……見事に合格だったそうだ。