秋田県鹿角市の大湯環状列石。英ストーンヘンジとの共通点も(時事通信フォト)

秋田県鹿角市の大湯環状列石(一部)。ストーンヘンジ(英国)との共通点も(時事通信フォト)

 同様の遺跡では英国のストーンヘンジがよく知られている。多数の石が環状に配置された古代遺跡で、個々の石の大きさや全体のスケールはストーンヘンジがずっと上だが、石の配列はよく似ていて、建造年代も一部重なる。建造意図が未解明な点も同じで、天体観測に利用されたとか、夏至・冬至の祭祀の場であったなどの説が唱えられている。

 一方、「なぜ北海道と北東北の縄文遺跡が登録されたのか」との疑問を持つ人がいるかもしれない。その答えは大きく2つ考えられる。1つは、西日本では弥生時代の集落跡と重なっていて縄文遺跡と区別がつけにくいこと。もう1つは自然環境の影響で、縄文時代前期から中期には狩猟採集生活に最も適した土地が北海道・北東北地域だったことが挙げられる。縄文時代中期には、東日本と西日本の人口比は30対1の開きがあったと推測されている。

 縄文時代、気温の寒冷化が始まったのは紀元前4000年頃。それから200〜300年の間に北海道・北東北地域の集落は無人状態に近くなるまでに衰微したとされる。ここまでの変化は寒冷化だけでは説明できないので、それに伴う入手可能な食料の減少や、限度を越えた集住で軋轢が生じ、収拾不可能な対立抗争に発展したなどの説が唱えられている。また、集住でゴミや糞尿の処理が追いつかず、疫病が蔓延して集落の維持が不可能になったという説もある。これら諸々の要因が重なったと考えるのが妥当なようである。

 縄文時代後期になると、文化の中心は関東・中部・北陸地方の一帯へと移るが、これには大規模な人口移動が伴った。縄文時代晩期になると、今度は西日本が暮らしやすい環境となり、文化の中心は西日本に移ることとなった。弥生文化が西日本を中心に栄えた理由としては、アジア大陸との距離が近かったこと、新たな社会や文化を受け容れる土壌が整っていた地域であったことなどが挙げられる。

 水田稲作や鉄器の使用、家畜の飼育など、弥生時代に始まる事物はたくさんある。その一方では受け継がれることなく、消滅した縄文文化が数多くある。今回ユネスコの世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」は失われた祖先の文化を再発見するよい機会だ。一度で全17か所を巡る必要はなく、数か所ずつ何度かに分けて現地を訪れることをお薦めしたい。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。

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