ホームレスに就業機会を提供する目的で英国で創刊された若者向け月刊誌「ビッグイシュー」の日本版を売るホームレスの男性(時事通信フォト)
みんな福祉に行って、仲間は減った
「ありがとうございます」
雑誌『ビッグイシュー』を売るホームレスの男性もすっかり都会の風景だ。同誌を売る男性と懇意になったこともある。出会ったのは3年前くらいか、ベネディクト・カンバーバッチの表紙が欲しくて買った。バックナンバーも並んでいたのでリーアム・ニーソンの表紙を買った。いま彼の姿は見ないが、幸せにしていると思いたい。今回はオーランド・ブルームの表紙の号を買った。彼らハリウッドスターもまた、こうして自身が出来得る限りの協力をしている。これが、誰からも知られ愛される存在になる道を選ぶということだ。
ビッグイシューと契約するホームレスはちゃんとこの雑誌を仕入れている。最初は無料で雑誌を卸してくれるとか。あくまで生活立て直しのための一環、いまもコロナ禍で路上に立って売っている姿を見る。素晴らしい制度だと思う。
「これ、食べ物の保存にいいんだよ」
有名デリバリーサービスのバッグをダンボール上に置いている男性、てっきり配達でもしているのかと思ったら食料の保存用とか。スマホがないのでは注文は受けられないわけで、バッグはもういらないからと通りすがりの配達員からもらったそうだ。
「みんな福祉に行ったから、仲間は減ったね」
福祉とは「福祉・介護ホームレス自立支援施策」のことを指しているのだろう。「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が2002年に成立して以来、日本のホームレスの数は減っている。厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」によれば、2006年から比べて2万人以上もホームレスは減っている。もちろんあくまで把握できている数でしかないが、筆者が西新宿にいた1990年代後半など新宿中央公園含めホームレスだらけだった。その時代に比べれば明らかに減っている。
日本の社会福祉は問題山積だが、1990年代などに比べれば福祉関係者の努力で小さな結果の積み重ねが実を結んだ形だ。もちろん見えない貧困という問題はあるが、福祉関係者の多くがたゆまぬ努力を続けてきた。ホームレス支援団体は結果を出してきた。厚生労働省は8月13日、「生活保護の申請は国民の権利です。」「生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。」とTwitter上で緊急ツイートを発した。こうした努力は、確実に社会をアップデートしている。
しかし、そうした努力の裏で、このコロナ禍にもホームレスに対する悲しい事件が起きている。ホームレスの命はどうでもいいという人間によって。