山本被告が事件のために作ったアカウントはこの「実」だけではない。同じく架空の人物である「実の父親」も作られた。さらに山本被告はSNS上で「元カレ」「元カレの母親」「元カレの交際相手」にもなりすまし、計5つにも及ぶ架空の人物のアカウントを駆使して、小船受刑者を操っていった。
小船受刑者によれば、山本被告が元カレに恨みを抱くようになったきっかけは、一連の事件を起こす直前に、山本被告が、飼っていた二匹の犬とともに、元カレの家を追い出されたことだという。
「山本は元カレのクレジットカードを不正利用しトラブルになり、元カレの両親から、家を出ていくように言われました。山本からLINEで『迎えに来て欲しい』と頼まれました。私は昔から、人が困っていたりすると、人助けをしたくなり、その時も、困っているなら1日ぐらい家に泊めてもいいか、と思い、私は車で2時間30分もかけて、山本を迎えに行きました。その後山本から犬一匹を預かって欲しいと言われ、人助けのつもりで飼い始めました」(小船受刑者の手紙から)
追い出されたことから元カレを逆恨みした山本被告は、復讐のために“事件を起こし、元カレに罪を着せる”ことを考えたのである。自分の手を汚さぬよう、小船受刑者に実行させるため、先の5つのアカウントをフル活用した。
「山本は元カレ、元カレの母親、元カレの元交際相手になりすまし私に嫌がらせのLINEをしてくるようになりました。その内容が『犬どろぼう』という内容でした。山本のかわりに私が飼い始めた犬のことです」(同前)
泥棒扱いして小船受刑者にも元カレ家族への悪感情を植え付けたところで、架空のアカウント「実の父親」が登場する。
「実」が山本被告の元カレから嫌がらせを受けているという設定で、「元カレの殺害を計画していて、それに協力すれば、今より給料のいい仕事を紹介し「実」との結婚も認め、住む場所の手配もする」とささやき、その気にさせていったのだという。「実」は、実行を躊躇し一度は抜けようとした小船受刑者に対し「意味がわからない。あなたがやらないなら、私が自殺するだけ」などと送信して、けしかけた。「実の父親」も「やらないなら、ヒットマンを雇った100万円を払え」などと追い込んでいく。
「脅しをくらい、私自身、やらないと何をされるかわからないと考えてしまったのです」
と、小船受刑者は振り返る。当初は、Aさんを殺害したのち、その遺体と免許証を山本被告の元カレの家に置き、元カレ宅を放火することで元カレを殺人犯に仕立て上げる計画だったが、殺害時にAさんは橋から落とされ亡くなってしまったから、遺体が手元になくなった。そのため、Aさんの免許証だけを置いて放火するという計画に変わったが、これも未遂に終わっている。